法曹人口が日本と圧倒的に違う米国では数年法律事務所で経験を積んだ後、企業のLegal Departmentに転職する人口が多い。もちろんLegal Departmentに限定されず、彼らの経験はビジネスの世界でも多く生かされている。研修先のとある事務所のAllumniと昼食をする機会があった。この機会を活かさない手はないと思って、依頼者側にたって感じることは何か、具体的には法律事務所に対するニーズとそれが充たされないとはどんな場合かということを聞いてみた。当然のことも多く含まれるけれど、僕が常々考えていることを概ね一致していた。これからの話の対象はビジネスロイヤーに限定された話と思っていただいた方が違和感がないと思う。
議論をした中で印象的だったのは、Valueという言葉がしきりに使われること。弁護士業にとっての付加価値とは何なのか、もちろんそれぞれの弁護士によって、取り扱う事件によって違う。訴訟を扱う弁護士にとっては端的にいうと勝訴であり、企業のビジネスにとって一番利益の大きい、または損害の少ない和解であろう。予防法務の場合は万が一の場合のリスクの大きさを把握し、リスクに対するコストパフォーマンスを考えたうえで対策を考えることだろう。訴訟の場合は極めて結果がわかりやすいが、予防法務の場合は「何かが起こるかもしれない」リスクを軽減することに対する対価が弁護士報酬であり、付加価値というものは認識しにくい。
最先端の分野を研究して自らの付加価値をつける専門的な弁護士がいてもいいし、ジェネラリストとして活躍する弁護士がいてもいい。人脈を通じて総合的なコンサルティングができる弁護士がいてもいいし、優れた法律調査ができる弁護士がいてもいい。尋問技術が優れた弁護士、いやらしく交渉をして和解に持ち込む弁護士、書面作成に優れた弁護士、色んなタイプがいるだろう。それぞれがもちろん付加価値を持っている。
依頼者のニーズという話から付加価値という話に転じたのは、話題のニーズの中で自分がもっとも意識してきたことが述べられていたからだ。ニーズという中には、迅速な対応、合理的な報酬、専門的な知識など当然のことが当然に含まれるけれど、僕が一番気になっていた部分もあった。
私たちは、弁護士に対して、YESかNOという答えは求めていない。それだけでは不十分なのにそれだけで終わる人が意外と多い。
つまりこういうことだ。企業のビジネスとしてAという目的が達成したいとする。Aという目的を達成する手段としてBという手段を考え、その合法性についてリーガルチェックを依頼された。X弁護士は、依頼を受け、迅速にあらゆる法律調査をやってのけ、関係政府機関に裏をとり、法律調査の結果としては非の打ち所のない意見書を作成して提出した。さて、これは依頼者のニーズを充たしているのか。依頼者の依頼内容によるが、多くの場合はそのニーズを充たしていない。X弁護士はこう聞くべきなのだ。
貴社の考慮されたBという手段をとった場合、C、Dというリーガルリスクが考えられ、これはお薦めできません。もし貴社がA´と目的で満足されるなら、Cという方法がありえますが、これは貴社のニーズに合致されますか。
依頼者のビジネスを理解し、ニーズを探り、最良の選択肢を提供する。これが僕の信じるビジネスロイヤーの付加価値だと思う。簡単なように見えて簡単なことではない。色んな弁護士の特色があっていいけれど、僕が目指すものは「提案型リーガルコンサルティング」だ。果たしてどこまで勝負できるだろうか。
(写真はGeorge Washington Bridge。記事とは関係ありません。)