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これでいいのか?METIの情報開示ガイドライン
今日の気分は「です、ます」調。

経済産業省が、上場企業に対して、「顧客満足度」、「従業員の転出比率」などを開示するよう求める指針を正式に公表したとの報道(nikkei.co.jp)がされています。METIのWEBサイトをみましたが、それらしき指針はみあたりません。報道のタイミングからして知的財産経営の開示ガイドラインとは異なるのでしょうから、いずれWEB上に掲載されるのでしょうか。

(追記)と思いましたが、ガイドラインの中に「顧客満足度」なる表示があるので、たぶん記事はこのガイドラインを指しているのでしょう。とすれば、日経さん時期はずれの記事ですね。(追記終わり)

投資家保護を主眼とした証券取引法制以外に経済産業省が開示の強化は会社のためになりますよと薦めるのは余計なおせっかいなような気がしないでもないですが、まあそれはおいといて少しこのガイドラインなるものについて考えてみようと思います。

経済産業省のガイドラインなので直接の目的は投資家保護とは違うのでしょう。政府が進める開示制度ですから、投資家をだまして株価を高くしよう!というはずもなく、投資家に有益な情報を提供して、企業価値を市場に適正に評価してもらうということにあるはずで、投資家保護を抜きにしては制度が成り立ちえません。

1. 自主的な制度でいいのか

企業の情報開示を促進しようという試みは理解するとして、まずは自主的な開示制度でいいのかという問題です。自主的な情報開示という意味では既にやる気のある会社さんは色々と取り組まれていますし、そうでない会社さんはやっていません。言うまでもなく、開示した情報を競合他社に利用されるなど、情報開示が当該開示企業にとって不利益に働く場合があり、自主的な制度設計にする以上は企業は自分が開示したいと思う情報しか開示しないことになります。企業としての当然の自己防衛です。自分に有利な情報はなるべく出していこうねというガイドラインにどれだけ意味があるのか、というのがまず一点目のコメントです。日本の企業の皆さんガイドラインには弱いんですよねー、役所がだしたからには従わないとーという声に期待しているんでしょうかね。

2. 開示した情報の評価の問題

財務情報など評価しやすい情報と比較して、「顧客満足度」などの概念は極めて抽象的で、他企業との比較が極めて困難です。マーケティングリサーチの方法によりいくらでも変わります。証券取引法制での情報開示は開示情報を他社と比較して分析・検討しやすくするための工夫がなされており、それなしのソフトな情報はあまり意味を持たないはずです。当社の顧客のうち70%が満足していると回答した、などという情報を比較するんでしょうか。具体的に比較可能にするためには幾つかの前提事実をおかないといけないはずで、対象製品やサービスはどれなのか、いつからいつまでに、誰にたいして、どういう方法でアンケートをとったのかなどの情報なしには比較すること自体に意味があるとは思えません。他方、詳細な顧客満足度のデータなどというものは企業秘密そのもので、それを企業が開示することに合理性はないはずです。

自主的にソフトな情報も出していきましょうねという制度は、かえって投資家を混乱させないでしょうかね?ソフトな情報も投資家に適正に評価してもらうために開示していきましょうね、というのならばどうして開示を促進させる具体的な制度をとらないのでしょうか。例えば、企業が開示によって誤解を受けた投資家による損害賠償を心配しているのなら免責されるためのセーフハーバーをもうけるとか、比較検討可能な情報開示の方法・雛形を定めるとか、やるべきことはたくさんあるのじゃないでしょうか。「●●リサーチ社の市場調査で当社が顧客満足度No.1に選ばれました!」という情報であれば、お役所に言われなくても開示すると思うんだけどなあ。

政府の役割は開示に際して企業が懸念する障害があるのならそれを取り除き、投資家保護のために必要な情報があるのなら企業秘密との兼ね合いを考えて開示義務を定めることであって、なるべく情報開示を進めましょうねという中途半端なガイドラインを作ることじゃないと思いますけど。
by neon98 | 2005-10-22 06:49 | Securities
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