これはすごい論文だ(完結編)-ああ疲れた
さて、前々回前回に続いて、論文をご紹介していきます。条文の引用などもあり、やや長くなりますが今日終わらせないと来週あまりきちんと時間をとれそうにないので、頑張っていきます。この分野については全く知識がなく、風営法などほとんど見たことがなかったもので何もかもが新鮮です。回転ベッドって実際には見たことないよなあ、という私の長年の疑問がこの論文により解決されました。これで私も風営法専門ロイヤーに一歩近づいたかと思います。以下、著者の主張は引用スタイル(但し、本来の引用のように逐語的な翻訳ではありません。)にして、論文の骨子をご紹介していくことにします。

(ご注意)この論文は日本における社会道徳と法規制との関係等をラブホテルを題材に論じるものです。著者自身も真面目に研究され、私も真面目にご紹介するに値するものだと思います。可能な限り不適切な表現は避けたつもりですが、文脈を失わないために説明を欠かせない場所については気分を害される方がいらっしゃるかもしれません。気にされない方のみお読みください。



前回は、「1.ラブホテルと売春との歴史的関係」「2.なぜ規制がなされることとなったのか」とところまでご紹介しました。今回はどのように規制がなされて、それが産業にどのように影響を与えたのか、論文をご紹介していきます。

3.どのような規制がとられたのか
長崎県飯森町はホテルや旅館を建築するにあたって町長の承認を要求する条例を制定した。ラブホテルを建築しようとした原告が町長から承認を拒否されたため、訴えた事例において、長崎地裁と福岡高裁は、旅館業法より厳しい基準を条例により制定するには合理的な根拠を要するところ、条例はその根拠を欠き、原告の職業選択の自由を侵害すると判示した(1980年11月18日長崎地判・判時978号24頁・1983年5月7日福岡高判・判時1083号58頁)(注:原判決にあたっていないので、行政処分を違法としたのか、条例を違憲または違法としたのか等詳細は不明です。著者によれば最高裁判決が出る前に風営法の改正がなされ、飯森町が条例を廃止したため、最高裁の判断はなされれませんでした。)。これを受け、1984年に議会は風営法を改正(85年発効)し、ラブホテルを始めて直接的に規制した。議会は単純に風営法の規制業種の中にラブホテルを追加することにより、ラブホテルを規制しようとした。
著者が規制内容の紹介をしている部分は条文を適宜ご紹介しながら進めていくことにします。改正風営法は、ラブホテル営業について公安委員会への届出制を定め、それをもとに規制を及ぼそうとします。後に定義を説明しますが、「店舗型性風俗特殊営業」という中にラブホテルを含ませようとしたのが立法者の意図だったわけです。
(営業等の届出)
第二十七条 店舗型性風俗特殊営業を営もうとする者は、店舗型性風俗特殊営業の種別(第二条第六項各号に規定する店舗型性風俗特殊営業の種別をいう。以下同じ。)に応じて、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会に、次の事項を記載した届出書を提出しなければならない。(以下略)
具体的な規制内容として、改正風営法は、都市計画規制(Zoning)として一定の公共施設周辺での営業を禁止し、都道府県に一定の地域での営業を禁止する権限を与えたほか、深夜営業、広告・宣伝、未成年者の立入りについての規制を加えます。以下、条文の一部を引用します。
(店舗型性風俗特殊営業の禁止区域等)
第二十八条 店舗型性風俗特殊営業は、一団地の官公庁施設(中略)、学校(中略)、図書館(中略)若しくは児童福祉施設(中略)又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを営んではならない。
2  前項に定めるもののほか、都道府県は、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があるときは、条例により、地域を定めて、店舗型性風俗特殊営業を営むことを禁止することができる。
3  第一項の規定又は前項の規定に基づく条例の規定は、これらの規定の施行又は適用の際現に前条第一項の届出書を提出して店舗型性風俗特殊営業を営んでいる者の当該店舗型性風俗特殊営業については、適用しない。(以下、略)
既存のラブホテルについては適用除外の規定が第三項に定められています。但し、既存のラブホテルであっても、増改築については公安委員会の承認を受けなければなりません。ろじゃあさん
ちなみに噂によると湯島界隈にはなんでこんな古い建物つかっとんのや?という特殊浴場があるらしい(伝聞)のですが、これは建替えちゃうと新たな許可がもらえないので大事に改装して使ってるそうです。古いラブホもそういう規制枠組みなんですかねえ。
とおっしゃっておられるのは、以下の条文を根拠規定とするものと思われます。
(構造及び設備の変更等)
第九条  風俗営業者は、増築、改築その他の行為による営業所の構造又は設備の変更(内閣府令で定める軽微な変更を除く。第五項において同じ。)をしようとするときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならない。
4.ラブホテルの定義

ようやく問題のラブホテルの定義にたどりつきました。
(用語の意義)
第二条
6  この法律において「店舗型性風俗特殊営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
四  専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令(昭和五十九年十一月七日政令第三百十九号)
第三条  法第二条第六項第四号 の政令で定める施設は、次に掲げるものとする。
一  レンタルルームその他個室を設け、当該個室を専ら異性を同伴する客の休憩の用に供する施設
二  ホテル、旅館その他客の宿泊(休憩を含む。以下同じ。)の用に供する施設であつて、その食堂(調理室を含む。以下同じ。)又はロビーの床面積が、次の表の上欄に掲げる収容人員の区分ごとにそれぞれ同表の下欄に定める数値に達しないもの(前号に該当するものを除く。)
(表省略)
2  法第二条第六項第四号 の政令で定める構造は、前項第二号に掲げる施設(客との面接に適するフロント、玄関帳場その他これらに類する設備において常態として宿泊者名簿の記載、宿泊料金の受渡し及び客室のかぎの授受を行う施設を除く。)につき、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一  客の使用する自動車の車庫(天井(天井のない場合にあつては、屋根)及び二以上の側壁(ついたて、カーテンその他これらに類するものを含む。)を有するものに限るものとし、二以上の自動車を収容することができる車庫にあつては、その客の自動車の駐車の用に供する区画された車庫の部分をいう。以下同じ。)が通常その客の宿泊に供される個室に接続する構造
二  客の使用する自動車の車庫が通常その客の宿泊に供される個室に近接して設けられ、当該個室が当該車庫に面する外壁面に出入口を有する構造
三  客の宿泊する個室がその客の使用する自動車の車庫と当該個室との通路に主として用いられる廊下、階段その他の施設(当該施設の内部を外部から容易に見通すことができるものを除く。)に通ずる出入口を有する構造
3  法第二条第六項第四号 の政令で定める設備は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一  動力により振動し又は回転するベッド、横臥している人の姿態を映すために設けられた鏡(以下「特定用途鏡」という。)で面積が一平方メートル以上のもの又は二以上の特定用途鏡でそれらの面積の合計が一平方メートル以上のもの(天井、壁、仕切り、ついたてその他これらに類するもの又はベッドに取り付けてあるものに限る。)その他専ら異性を同伴する客の性的好奇心に応ずるため設けられた設備
二  次条に規定する物品を提供する自動販売機その他の設備
三  第一項第一号に掲げる施設にあつては、前二号に掲げるもののほか、長いすその他の設備で専ら異性を同伴する客の休憩の用に供するもの
立法担当者の苦心の跡が伺えてとても興味深い定義規定です。この方もきっとフィールドワークをなされたのだと思います(^^)。

5.規制の効果

規制の効果について、筆者はそれぞれのデータソースをあげておられ、各データソースによって信頼性に差異があることを認めておられます。ここでは、ソースをあげずに紹介しておきますので、興味があられる方は原文をお読みください。
風営法の改正を受け、各都道府県はラブホテルを規制するために条例を改正した。全ての都道府県は既存の都市計画規制をそのまま活かし、ラブホテルが営業できる区域を限定した。その結果、ラブホテルは特定地域に固まるようになった。改正風営法が施行されてから後、「ラブホテル」の数は減少し、1985年には11,000件だったのが、2,000年には7,000件に減少した。公開されたデータは存在しないが、各関係者の証言によると、1985年以降新規に風営法のもとで届出がなされたラブホテルは一つも存在しない。すなわち、この数の減少は専ら1985年以降閉鎖したラブホテルの数を示している。
もちろん話はここでは終わりません。産業データによれば実際には30,000~37,417(データソースによる:時点不明)の「ラブホテル」が存在しています。この数の差異はどこから生じるのか。もう皆さん答えはおわかりですね。残りは規制を逃れたラブホテル(extralegal love hotels)であり、風営法による規制強化後、立法者の意図とは別に、ラブホテル産業は逆に繁栄を極めていったのです。具体的にどういった現象が起こったのか、見ていきましょう。
(1) Extralegal love hotels への転換;幾つかの既存ラブホテルは、風営法の「店舗型性風俗特殊営業」という定義から逃れるため、ロビーを設け、食堂を設け、回転ベッドや大型鏡を外した。新規開業するホテルも定義から外れるために同様のことをした。
旅館業法に基づく規制は受けるわけで、大規模のラブホテルは普通のホテルとして、小規模のラブホテルは旅館として法的には存在することになるわけです。しかし、都市計画規制、増改築規制に加え、警察関係者・地方自治体関係者の関与を避けるという動機はやはり大きいようで、多くのラブホテルは法的には「ラブホテル」ではない状態として存在することを選択します。余談ではありますが、規制を逃れるために作ってみた食堂をお客さんが実際に利用するようになって驚いた従業員のエピソードなども書かれています。
(2) Extralegal love hotelsに変更しなかったラブホテルの選択肢としては、風営法の規制下での営業をするか、閉鎖をするかの2つしかない。風営法の規制下では増改築の許可が得られず、客がよりつかなくなったラブホテルは閉鎖していった。閉鎖せずに生き残った既存のラブホテルは競争相手の減少によるメリットを受けて収益を改善している。
これらの変化は、規制強化を受けての直接的なラブホテル経営者らの対応による結果です。しかし、ことはこれだけにとどまらず、競争市場自体に変化が生じます。
(3) ラブホテルでない、いわゆる通常のホテルの一部も宿泊に加え、休憩サービスを提供することとなり、ラブホテル業界との潜在的競争相手となった。
著者は、ドンキー・コングが建物の上についていたりして外見からは明らかに差異があるのはわかるけれども、実際のサービスにおいては徐々に垣根が少なくなってきていると指摘しています。原因としては、通常のホテル経営者のインタビューを通じて、風営法の定義規定によって逆に違法な範囲がどこまでかが明確になり、通常のホテルが「ラブホテル」ビジネスに参画しやすくなったことが関係していると分析しています。私自身、銀座にあるそこそこ一流のホテルの客室回転率のデータなどをある方に教えていただいたことがあるのですが、不思議なことに150%近い数字でしたので、その通りなのでしょう。

6.ファッションホテルの繁栄とその理由
ある関係者は、利益、顧客数、評判の向上は全て風営法改正の結果であると指摘している。潜在的には業界にとって壊滅的な損害を与えかねない立法であったが、経営者は建物や設備に若干の変更を加えた程度であり、風営法はラブホテルからダークなイメージを除去するのに貢献した。風営法の定義規定は何が違法ではないかということを明確にする意味を持ち、顧客側が利用しやすくなったし、金融機関としても融資しやすくなった。多くのラブホテルは、いまやファッションホテルと呼ばれ、おしゃれでかわいい建物が主流となっている。むろん、変化は全て風営法改正によるものと言うことはできず、日本人の意識の変化や、ファッションホテル増加がバブルと重なったことも原因となりうる。
7. 余談―アメリカにおける法規制
アメリカにおいては、性産業を規制する手法として、猥褻概念(obscenity)、都市計画規制(zoning)、許可制(licensing)、周辺環境への悪影響(nuisance)が用いられるが、地方当局はしばしばzoningやlicensingの規制手法を用いる。しかし、規制手法よりも定義がしばしば問題となる。
として著者が紹介しているケース(FW/PBS, Inc. v. Dallas, 293 U.S. 215 (1990))でのAdult Hotelの定義を引用してみます。とても面白いです。
ADULT MOTEL means a hotel, motel or similar commercial establishment which:
(A) offers accommodations to the public for any form of consideration; provides patrons with closed-circuit television transmissions, films, motion pictures, video cassettes, slides, or other photographic reproductions which are characterized by the depiction or description of “specified sexual activities” or “specified anatomical areas”; [each as defined] and has a sign visible from the public right of way which advertises the availability of this adult type of photographic reproductions; or
(B) offers a sleeping room for rent for a period of time that is less than 10 hours; or
(C) allows a tenant or occupant of a sleeping room to subrent the room for a period of time that is less than 10 hours
8. 感想めいたこと

規制しようとしたときに色んなアプローチがあると思いますが、それぞれに長所と短所があり、なかなか思ったとおりに動かないというのが世の常なんでしょうね。ファッションホテルについては、日本の住宅事情を考えてみた場合に必要なものだろうし、うまく共存していく必要があるのでしょう。ここまで読んでいただいた方、どうもご苦労様でした。いやあ、長かった。最後に、ろじゃあさんを真似て出題です。ロースクールの先生方、試験にいかがですか。
1. 今までの論述を参考に既存の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の枠組みでラブホテルを規制するとした場合に、どのように定義規定を設けるべきか。理由を含めて簡潔に記述せよ。

2. 他に異なる規制アプローチが考えられるか。長所・短所を比較検討のうえ、もっとも望ましいアプローチを簡潔に記述せよ。

〔制限時間24時間以内。いかなる文献の参照も可能とする(但し、引用すること)がコピー&ペーストは不可とする。回答はトラックバックによること。以上。検討を祈る。〕

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by neon98 | 2005-11-12 06:29 | LEGAL(General)
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