このブログの趣旨は、留学の間に感じたことを少しずつ書いていこうという点にあるので、今日は少し真面目に歴史教育について考えてみたいと思います。とはいえ、私に歴史について十分な知識があるわけでなく、日本で歴史教育を受けただけで他の国の歴史教育との比較ができるわけではありません。学校で学ぶ歴史は好きでしたし、今でも司馬遼太郎の歴史小説などはよく読みますが、それ以上の知識はありません。
日本の歴史教育に関していえば、やはり暗記が中心で、年号、人名、事件名などを覚えてもそれが有機的につながりにくいということは言えるかもしれません。歴史は繰り返すとよく言われるように、多くのケーススタディとして有用なはずで、地租改正などの一つの政策が社会経済にどのように影響を与えていったのかという流れを学ぶということをもう少し考えた方がいいように思います。
高校での歴史に関していうと、例えば私の高校では近現代史は最後の3学期に随分はしょって教えられたという印象で、センター試験を迎える時期にはまだ江戸時代後期までしか進んでいませんでした。中世までの歴史が不要だとは言いませんが、それは文化・教養という深いレベルの話の中であり、建築物・書物・古典・彫刻といった現物との対比の中で教えていく方が面白いのではないかと思います。社会経済との関係でいえば、近現代史のところを十分に時間をとって教えるということが必要なのではないでしょうか。
素人の個人的な意見はこれくらいにして、なぜこのテーマなのかという点について少し触れたいと思います。留学をして各国の学生と酒を飲みながら、スポーツの話、女性の口説き方の違いなどの馬鹿話もたくさんしましたが、それぞれの学生が自国の歴史はもちろん、世界史について造詣の深い知識を披露してくれたのには正直感嘆しました。人口や出産率の推移、歴代の主要国首脳の評価、労働時間の国際比較などの話題にも鋭い意見を述べますし、アジアの話題でも日本と韓国の不況に対する対応策の違いから村上春樹の小説の話題まで軽く対応してきます。彼らにとって世界は本当に狭いんだなあということを実感するとともに、日本国内の情報がいかに国内だけを向いているかということを感じざるを得ませんでした。
もう一つは「愛国心」という部分です。私は個人的には「愛国心」は教えるものではありませんし、日の丸・君が代の強制という手段時代には抵抗感を覚える人間ですが、その反面、自分や自分の国のことを卑下する特性についてはもっと抵抗感が強いです。戦後の「反省」が強すぎて、「愛国」=「軍国主義」といった短絡的な結びつきがなされてきたことも事実だと思います。他の国の留学生が俺の国はこんなにすごいんだー、みたいな発言をするのを聞いて、純粋に自分の国を誇る気持ちはいいもんだなあと思ったわけです。
そこで純粋な疑問として、他の国の歴史教育ってどうなんだろうと思い、手にとってみたのが
アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書という本です。前書から本の内容についての紹介文を引用します。
この本は、バージニア大学のE.D.ハーシュ教授(英文学)が編纂した6冊の小学生用教科書からアメリカ史の部分を抜粋して1冊にまとめたものです。この6冊の教科書シリーズは、文学・歴史・地理・美術・音楽から数学・自然科学と、アメリカの小学生に必要な知識が体系的に学べるように編集されています。
小学生向けの本ですから読み物として気楽に読めますし、日英対訳がついていて日本語でも読めます。英語もそれほど難しいことはありません。感想は2つあって、アメリカ史は必然的に近現代史になるので学んだものがほとんど利用価値が高いという点と、もう一つは意外と(というと失礼ですが)フェアな内容だなあという点です。アメリカには教科書検定はなく、地域によってそれぞれ利用する教科書が異なるということですので、この本のみで判断をするのはいささか危険があるのは事実ではありますが、少なくともこの本を読む限りはアメリカの美点・汚点ともに平易にまとめてあるという感じがしました。
アメリカン・インディアンへの迫害、黒人への迫害、マッカーシズム批判などについて記載があるのはまあ当然でしょうかもしれませんが、日系アメリカ人の強制収用などもきちんと項目をたてて説明がなされています(ちなみに、日系アメリカ人の強制収用に関しては、
KOREMATSU v. UNITED STATES, 323 U.S. 214 (1944)という有名かつ批判の多い判決があります。)。小学生向けの歴史教育の教科書としては優れたものだという印象を持ちました。
ロースクール時代はとても時間がなくて本を手に取ることが少なかったのですが、2年目となると仕事に関係のない本をどんどん手にとるだけの時間と心の余裕があるのがうれしいですね。