REPORT - Interesting Case Study
47thさんが、村上ファンドによる新日本無線に対するTOBについてエントリしていらっしゃいます。47thさんの柔軟な発想力、経験に裏付けられた知識を無料で披露してくださるのですから、彼のブログを読まないのはもったいないというわけで、ほとんど毎日チェックしています。ロースクールに在籍しながら、更新頻度が落ちず、かつ、内容のある記事を書き続けるというのはほとんど驚異的です。

47thさんが前回ラブホテルネタにチャレンジしてくださったからというわけではありませんが、Notes and Questions形式の出題に果敢に挑んでみることにします。「知らぬは一時の恥、聞かぬは一生の恥」なんて言い訳をしながら、匿名ブロガーはテキトーな回答を用意してみました。私は47thさんのエントリで初めてTOBのことを知ったくらいですから、秘密情報への接触もありません。回答の中で株価への期待についてテキトーな意見を述べますが、有価証券報告書などの公開情報すら読んでいない私がテキトーに書いただけのものですから、株式投資は自己判断で行ってくださいね。

1. 設問1
本件が「日本無線から日清紡績への子会社株式売却」だとすれば、なぜ、日本無線と日清紡績は直接に契約を行わなかったのか?また、なぜ、日清紡績は買付上限を設定したのか?買付上限を設定しなかった場合には、買付価格はどうなると予想されるか?それは何故か?
まず、前段は強制的公開買付制度の存在という理由に尽きます。例え相対取引を想定していたとしても、現行の公開買付法制度の下では上場会社の3分の1超の株式を取得するためには公開買付によらなければなりません。従来使われてきたTostnetなどの立会外取引もライブドア事件の余波を受けて公開買付を回避する手段としては使えなくなりました(証券取引法第27条の2・公開買付けの対象となる立会外取引の指定(金融庁告示平成17年7月8日))。厳密にいうと、公開買付制度が事前の契約締結まで禁止していると読むかどうかは別問題だと思いますが、いずれにせよ、取引の実行は公開買付制度への応募という方法をとらざるを得ませんし、応募株主は違約金・損害賠償などの請求を受けずに応募を撤回することができますので、契約の締結自体に意味が乏しいということになります。

日清紡績が買付上限を設定した意図は、日清紡績側のファイナンスの問題や新日本無線側の理想とした株主分布の問題など色々な説明が可能なように思いますが、いずれも関係者のビジネス上の戦略上の話ですから想像以上の説明はできません。端的な答えは、日清紡績と日本無線との相対取引のニーズが設定された買付上限数で合致したということでしょう。
日清紡績側からすると、3分の1超でも十分とする考え方から最終的にGoing Privateしてしまうという考え方までありうるわけですが、公開買付提案からは日清紡績としては少なくとも過半数をとれば十分と考えていることははっきりしています。公開買付制度では、応募株式が上限を超えた場合は按分比例されますから、日本無線としては全株式売却するためには多い方がいいわけですが、日清紡績側としては過半数をとれば十分と考えたことが推測されます。日本無線側としては支配権を移転する以上、あまり多くの株式を残していてもしょうがないわけで、少なくとも保有株式が全て売却できる可能性くらいは残しておいてほしいと思ったと推察されます。日清紡績が新日本無線の支配権を確保するためには日本無線との合意が必要不可欠なわけですから、両者のニーズが合致した時点が買付上限だったというわけです。その意味では、「この買付予定株式総数は日本無線という特定株主からの買付けを主目的とするものと見受けられます」とするMAC側の説明は正しいと推察されます。

買付上限を設定しなかった場合の価格に与える影響ですが、この取引でコントロールプレミアムがどのように考慮され、誰に対して与えられているのかを考える必要があります。買手がこれ以上は不要だと主張している中で買付上限を撤廃しないわけですから、コントロールプレミアムを全ての株主に対して平等に与えようという公開買付制度の趣旨からすると日本無線という特定株主に対して支払われようとしているプレミアムが全ての株式に希釈化され、一株あたりの買付価格は下がるというのが理論的なように思います。ただ、この考察は適正な時価に対するコントロールプレミアムが支払われているという前提に立った場合の話です。

当然ながら売り手としては高い価格で売却したいわけですが、強制的公開買付制度のもとでは高い価格をつけると他の株主が応募してしまい、売り手としては売却したいだけの株式数を売却できないという事態が発生します。それを避けるために売り手としては比較的穏当な価格であっても売却予定株式数を売却するという選択をする余地が生じます。これは単なる理論的な現象ではなく、Institutional Change and M&A in Japan: Diversity Through Deals, Curtis J. Milhaupt and Mark D. West (November 2001)という論文で、1990年から2000年までの59の公開買付におけるコントロールプレミアムは平均マイナス4.72%だったということが指摘されています。売り手としては余り多くの株式を手元に残してしまうと、市場で処分する場合の値崩れが予想されますので、まとめて売りたいというインセンティブが価格上昇圧力を減殺する可能性があるわけです。

適正時価が何なのか、コントロールプレミアムが支払われているのかは個別案件の具体的評価方法によりますので、単なる一弁護士がコメントをするわけにはいきませんが、必ずしも今回のTOBにおいてコントロールプレミアムが価格に含まれているとは限らないことからすると、価格がどうなるかは一概にはいえないことになると思います。

2. 設問2
新日本無線の株式は公開買付発表まで730~750円だったのが、その翌日に835円に上昇し、その後は830円前後で安定している。市場が情報を適切に反映したとすれば、これは、投資家がどのような期待を頂いたことを示唆するか?(a)830円台で購入した株式を840円の公開買付価格で日清紡績に売却できる(日清紡績の買付には買付予定数が設定されていることを考えよ)、(b)新日本無線の取締役会が述べたような「業績の向上と事業基盤の拡大」が見込めると予想した(日清紡績とはシナジーが見込めないとする村上ファンドの主張と整合的か?)、(c)全株買付を行う第三者が現れることを期待していた(親会社である日本無線が買付に応じない限りは、およそ支配権獲得を目論む他の買付者が現れる可能性は乏しいことを考えよ)、(d)その他。
日清紡績の買付には買付予定数が設定されていることからすると、(a)の選択肢は合理的な期待としては考えにくいです。(c)の選択肢は、現実に第三者が登場したことからするとなかなか除去しにくいですが、MACという「例外的存在」まで市場が期待として取り込んでいたかというとどうでしょう。理論的には、親会社である日本無線が一度売却の判断をした以上、原則として一番高い価格の買手に売却する義務が発生し、ビッドが開始されたとして、第三者の登場を読み込むことも合理的だと思います。日本無線が一度当該価格での応募をすることが経営判断として合理的だと判断し、かつ、事前に売却の約束が存在したとしても損害賠償や違約金の支払いなしに撤回できる(MAC側も当然このあたりを計算に入れているはずです。)のですから、低い価格を提示する買手に売却するには相当の合理的根拠が必要なはずです。その意味で理論的に支配権獲得を目論む他の買付者が現れる可能性は乏しいとまでは言えないと思います。ただ、現実的に市場がどれだけの期待感を抱いていただろうかというのは、よくわかりません。日本のmarket for corporate controlの成熟度を、市場がどう見ているのかという点に帰結するのだろうと思いますが、感覚的に市場が第三者の登場を期待していたかと言われるとNOのような気がします。

私の回答は、(b´), (c), (d)のミックスとしておきます。「市場が情報を適切に反映した」という前提における情報は、市場が通常入手しえるであろう公開情報を意味し、インサイダー情報を除くとすれば、情報の非対称性は残るわけで、市場の期待としてはインサイダー情報を有するであろう人の意思決定に従属するインセンティブが存在します(あくまでも一般論ですが。)。友好的買収の事例ですから、日清紡績は事前にデューディリジェンスを終了あるいは相応の情報公開を受けているはずで、その上で日清紡績が当該価格を妥当として提示したという点は市場の期待として存在するはずです。(b)の選択肢に近いですが、市場が主体的に事業計画を判断したというよりは、インサイダー情報に近い人の意思決定を尊重したというニュアンスに近いので、(b´)としておきます。(c)も一応ありうる期待でしょうし、(d)としては過去のTOBにおける株式市場騰貴状況というデータからの期待というのがありうると思います。

3. 設問3
市場において株価が公開買付価格前後で推移している状況において、一般株主としては、公開買付けに応じることは合理的か?公開買付けにあっては、50%超を有している日本無線が公開買付けに応じることを表明しており、50%超を超える部分については按分比例での買付となるため、他の一般株主が全員応募しても、応募した株式のうち半分しか買取に応じてもらえないことを考えよ。
MACが登場する前の段階で意思決定を迫られる質問と理解しました。公開買付がなされた後の株式の取扱いを一般株主がどう予測するかという問題だろうと思います。公開買付前に一般株主が有している情報をまとめてみます。
・ 日本無線が本公開買付けに応募し、TOBが成立するという合理的予測
・ 日清紡が新日本無線の株式を最大で52.63%(間接保有含む)を保有すること
・ 東京証券取引所への上場は(さしあたり)維持されること
・ 日清紡と日本無線との間で何らかの事業に関する提携が進められること
・ (おそらく)現経営陣の構成は大きく変更される可能性は低いこと
・ その他、有価証券報告書等から得られる財務情報

一般株主が通常持つ情報レベルからして、これだけの情報でTOB終了後の新日本無線の株価がどのように変わっていくのかを予測していくのは困難です。この設問には唯一の正しい答えは存在しないはずなので、個人的な意見を述べます。一般株主は、情報の非対称性を十分に認識をして、日清紡と日本無線の経営陣がTOBの株価についてどう考えているのかという情報に着目すべきです。そうすると、コントロールプレミアムが支払われているのかという問題に戻るわけでして、売り手のインセンティブの問題に気づくところです。公開買付制度のもとでの相対取引という実態からして、格別高いTOB価格が提示されているわけではなさそうだと予測すれば、TOBに応じないことも合理的といえると思います。反面、TOBに応じたとしても半分の株式は手元に残るわけでして、リスクを分散するために半分については利益・損失確定させるというのも合理的といえるのではないでしょうか。どっちでもいいという答えだと零点ですかね(^^)。

4. 設問4
エムエイシーのプレスリリースは、新日本無線の株主が害されると主張しているのか?公開買付価格の840円が潜在的価値より安価な場合には、当該公開買付けによって新日本無線の株主は害されるか?仮に、一般株主が公開買付に応じなければ、日本無線から日新紡績に親会社が変わるだけであるが、日清紡績に親会社が変わることによって、新日本無線の一般株主の利益が以前より害されると信じる合理的な理由はあるか?
マイナスプレミアムのTOBが過去に実在したくらいですから、本件公開買付を相対取引とみれば、価格が安い=新日本無線の株主が害されるという理解は短絡的で、慎重に考える必要がありそうです。どうしても全ての株式をTOBで売り切りたい大株主が安い金額でTOBを設計したと市場が捉えると、主要株主の変更による間接的な影響以外に少数株主に与える影響はないことになります。ただ、MACのプレスリリースは、公開買付価格が安いと主張していますから応募する株主を害すると主張していますし、長期的な意味でも日清紡が株主価値最大化のためのパートナーではないと主張していますから、その意味では「新日本無線の株主が害される」と主張していることになるのではないでしょうか。

仮に、一般株主が公開買付に応じなければ、日清紡績に親会社が変更されるだけというのはその通りで、親会社の変更による利益・不利益をそれぞれの株主がどう見るのかということになると思います。長期的な比較はよくわからないという意味では、少なくとも「一般株主の利益が以前より害されると信じる合理的な理由」はないでしょう。

5. 設問5
日本無線が900円の公開買付けに応じなかった場合に、日本無線の株主から日本無線の取締役会が義務違反を提起される可能性はあるか?訴訟が提起された場合には、どのような基準が適用されるべきか?また、どのような事情があれば、責任を追及される可能性を軽減することが可能か?新日本無線の取締役会についてはどうか?
ここが一番興味のあるところです。どうなんでしょう(^^)?

日本無線の取締役は、当然日本無線の株主に対して善管注意義務を負いますから、株主の利益のために行動する義務を負うわけです。ただ、取締役として経営を任されている以上、一定の裁量を有する(行為規範)はずだし、裁判所としても取締役の専門知識に対してそれは違うというのは難しい(司法審査の謙抑性)わけです。日本法における経営判断の原則というのは、正直深く勉強したことはなく、デラウェア法のビジネス・ジャッジメントルールほど判例法の積み重ねがあるわけではありません。荒い議論をすれば、取締役が十分な情報を集め、利害相反のない状況で判断した事項については、裁判所が立ち入るべきではないといえると思います。

ただ、ここでの状況は少し特殊です。すなわち、日本無線の取締役会としては既に新日本無線の株式売却についてGOサインを出しているわけで、売却するかどうかの判断を求められている状況とは明らかに違うわけです。売却するかどうかの判断では、戦略的に保有していることが求められている株式というものがあるわけで、その戦略が正しいかどうかについてまで裁判所が立ち入るのはおかしいといえるわけです。しかし、一旦売却という決断をして、その対価が現金である場合には、原則として長期的な関係が切れてしまうわけですから状況が異なるはずです。

極端な事例をあげてみます。破産管財人が不動産を売却するにあたり、AとBが入札したとします。Aさんは1億円、Bさんは1億2000万円を提示し、両者ともに資力に不安はなく、その他の取引条件は全く同じとします。破産管財人は破産している財団の今後のビジネスを考慮する必要はないわけですから、単純に物の売買として高い値段を提示した方に売却しなければならない義務を負うはずです。でも、Aさんが買手のつかない別の不動産を5,000万円で買いますよと言ってきたらどうでしょう。

デラウェア法で言うところのユノカル、レブロンなどいずれの基準で対応するのが妥当というところまでは考えが及びませんが、少なくとも売却の決断を求められる時点と比較して、既に売却の決断をしており、その対価が現金である局面においては価格を相当程度重視して判断する義務があるとまではいえそうな気がしますが、それでも取締役の裁量が残ることは間違いなさそうです。適用される基準としては、何と呼べばいいのかわかりませんが、「価格一本勝負にはならないけれど、価格の違いを正当化するだけの事由が求められる基準」が必要といえると思います(適当な名前がなければ、neon98基準とでも呼びましょう。)。取締役側に立証責任が転換されることまではやむをえない事例といえるような気がします。

ただ、日本無線が新日本無線を売却した後も、日清紡ないしは新日本無線との戦略的な関係が残ることも十分ありえます。また、日清紡がアロカという日本無線の子会社の株式を一部取得するという事情(PDF:日清紡のHPより)もあるようです。アロカという会社も含めて一体的な組織再編成を日清紡との間で行っているとすれば、日本無線の取締役会が安価であっても日清紡に売却することを優先するだけの合理的理由があるのかもしれません。
公開買付法制は、応募の撤回に対して違約金・損害賠償の請求を禁止していますが、今後の事業戦略上の関係を切ることまでは禁止できないわけで、TOB提案に応募しなければ今後の事業提携がうまく進まないよという日清紡側のプレッシャーを日本無線の取締役会が考慮することは許されるように思います。

取締役の裁量を肯定するこうした事情が存在する場合でも、やはり危険は残るわけで、最低限専門家の意見、社外取締役の意見は求めていく必要はあるでしょう。関係者の地位保全のために日清紡への売却を優先したと言われないための工夫が必要かと思います。

新日本無線の取締役会については、日清紡への売却について賛成意見を出した後に、MACへのより高い公開買付提案に反対することが許されるかという問題かと思います。全株式の取得を提案する事例とは異なり、ここでは既存の少数株主が新日本無線の株主として残ることが予定されています(日清紡の提案の場合)。ソトーの事例では、最終的にホワイトナイトがより高額の提示を出すことを断念した時点でホワイトナイトへの公開買付提案への賛成意見を撤回し、増配提案に切り替えたように記憶していますが、たしかソトーの事案では双方から100%買付あるいは買付後のゴーイング・プライベートが提案されていたのではなかったでしょうか。

新日本無線の取締役としては、日清紡の公開買付実施後に株主として残る少数株主の利益を考慮し、MACの公開買付提案より有利であると判断できれば、より安価の提案に賛成意見を述べることが許されるはずです。その場合の司法審査基準としては、経営判断の原則が採用されるべきでしょう。

6. 設問6
日本無線が公開買付けに応じない場合には、エム・エイ・シーが採り得る選択肢には、どのようなものがあるか?それぞれのメリット、デメリットも答えよ。
法定の持株要件を充足することを前提として、日本無線への株主代表訴訟提起が現実的かと思います。商法272条の違法行為差止め請求は、善管注意義務違反を根拠としてはできないとした裁判例があったように思いますが、記憶が定かでありません。新日本無線には目に見える損害が発生していないわけで代表訴訟にはなじみませんし、取締役の第三者(MAC)に対する違法行為を請求するのも、取締役会の意見に関わらず、日本無線は株式を売却したであろうと言われればそれまでという気がします。

ちょっとダラダラと思ったことを回答してみましたが、先生、いかがでしょう?Bマイナス以上はもらえないと卒業やばいんですが、なんとかなりませんか?ゼミの飲み会で必要であれば、いい日本酒がありますんで、是非どうぞ(^^)。
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by neon98 | 2005-11-22 08:25 | M&A
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