証券取引所規則の正当性?
Toshiさんが黄金株と証券取引所の役割について興味深いエントリをされておられます。研修の身で暇なはずの私ですら十分な時間がとれず、「ボストン行ってうまい飯食ってきた」みたいな適当なエントリをしてごまかしているにもかかわらず、日々業務に追われながら毎日真剣に企業法務ネタを提供してくださるToshiさんには本当に頭が下がります。参照させていただいたエントリは以下のとおりです。
黄金株と司法判断(2) 
黄金株と東証の存在意義 
黄金株と司法判断

わかりやすいように最初に立場を明らかにしておきます。このエントリは、証券取引所規則に民主的な裏づけが必要という意見に対して、ちょっと反対の意見を述べてみようというものです。但し、金融庁による規則に対する認可権限にまで反対しているわけではないので、現実的な違いはないかもしれません。権限を保有しておくこと自体はかまわないけれど、そこまで政治介入しなくてもいいんじゃないの?という意見だと受け取っていただくといいかもしれません。

1. 黄金株

黄金株についての私の立場はまだよく固まっておらず、色んなバリエーションがありうるだけに是々非々の対応でいいのではないかという一点に尽きるわけで、特に意見はありません。Googleのようなメチャイケてる企業がIPO時に投資家に対して開示をしたうえで利用することまでも禁止する必要はないような気はします。ですから、私としてはさしあたり、規則制定の場面でもやや抽象的な規則を作成しておいて審査および開示という運用面で工夫すればいいのではないかと考えています。でも、本当に書きたいことは証券取引所の規則制定権の話です。

2. 会社法と証券取引法の関係

Toshiさんの商法と証券取引法が逆転?というエントリで上村教授の意見(というかキャッチフレーズ)に感じた違和感は、そもそも規制分野が違うんだから逆転も何もないんじゃないかというものです。辰のお年ごさんがコメント欄に以下のように書いておられるとおりだと思います。
本日大臣の発言について、会社法で認められることがどうして東証の規則で原則禁止となるのか、と報道されています。全文を見るまで一定の留保をすべきですが、やはりこのような分かりやすいが誤解を招きかねない論点については、議論を尽くす必要があるのでしょう。会社法は、今般改正により、原則自由の建前に変化していますが、企業法の土台となる会社法は、未上場の会社であれ上場会社であれ適用されるものとして、かなり懐が広い(深い?)法律へと変貌することになると考えられます。上場会社のあり方についてどうこう規定することは、そもそも会社法がすることではないのです。
会社法で認められることがそのまま上場企業において認められるべきだという議論にはつながらないのは当然のことで、証券取引法が会社法にない別途の規制を加えること自体に異論がある人はいないと思います。ましてや、証券取引所規則は、法令ではありません。上場審査基準・廃止基準ともに各証券取引所毎に異なり、企業の多様なニーズに応えるものとなっています。

3. 証券取引所規則の法的性質

Toshiさんは東証の規則制定権の正当性に疑問を投げかけられます。
そもそも、この東証(東京証券取引所)は「法令に基づく自主規制機関」とされていますし、投資家保護を目的として参加者が遵守すべき規則を制定することは間違いないものと思いますので、どっかに規則制定について民主的コントロールが機能すべき「正当性」といいますか「法源」が必要だと思うのですが、この法源はどこに由来しているのでしょうか。(中略)この「正当性」を考えるにあたって、証券取引法の根拠条文を探ってみますと、内閣総理大臣(金融庁)による免許制度、会員の規律(規則)記載義務、金融庁による是正措置、規則制定、変更にかかる認可権あたりでしょうか。しかしながら、証券取引所の制定に関する組織法上の根拠条文はありませんし(だから自主規制機関となるのでしょうが)認可制である以上は自主的な規則制定権は規定されておりません。東証の制定する規則は、金融庁にお伺いをたてて、そこで認可を受けることによって「かろうじて」その正当性の根拠を保ちうるのではないでしょうか。もちろん、東証が規則を制定することが妥当とされる政策的な根拠(専門性、迅速かつ柔軟性、コストの低廉性)は十分に理解しうるところであります。しかしながら、参加者がこの規則に従わなければならない「正当性」というものが、そのような政策的な理由に基づくものであるならば、東証の規則制定は万能であって、投資家保護と言いながら、投資家によるコントロールの及ばないところで、「これが投資家にとって最善の方法である」と決められてしまうような理屈になってしまわないでしょうか。(中略)そうであるならば、民主的コントロールの及ぶ行政府の意向に(権限を委託されている)東証がコントロールを受けるべきは当然のことでありまして、東証が金融庁を協議において説得できないかぎりは、金融庁の判断に従わざるをえないとしか解釈できないと思います。
しかし、東証の規則は正確な意味での「法源」ではないはずです。会社はその株式を上場するかどうか、上場するとしたらどこに上場するのかという選択権を有しており、証券取引所はサービスを提供する一企業体にすぎず、だからこそ自主規制機関なのです。本質的には、証券取引所規則は、約款にすぎないといえると思います。

4.証券取引所の役割

証券取引所が公的役割を担っていることは争いようがないですが、本質的にはサービスを提供する一企業体にすぎません。証券取引所のサービスを幾つかの方法で分類できそうですが、例えばJonathan Macey and Hideki Kanda, THE STOCK EXCHANGE AS A FIRM: THE EMERGENCE OF CLOSE SUBSTITUTE FOR THE NEW YORK AND TOKYO STOCK EXCHANGES, 75 Cornell L. Rev. 1007は、(1)流動性(2)証券取引監視機能、(3)取引費用削減および(4)投資家への情報提供機能(レピュテーション維持機能を含む。)というように分類しています。証券取引所としては基本的には上場企業をクライアントとして収益をあげていくわけですが、適切な情報開示機能、公正なルールを確保できなければ、投資家の信頼を失い、流動性確保という最も重要な機能をクライアントに提供できなくなる関係にあります。企業側のニーズとしても、IPOを目指す企業から名だたる大企業まで様々なニーズがあるわけですから、法による画一的な規制アプローチをとるよりも、基本的には証券取引所間の自由競争を促し、当局は(免許を与えた後は)事後審査に徹するというポリシーを採用したというのが私の理解です。

日本においてはNASDAQジャパンは撤退し、東証が圧倒的な地位を占めていますので、証券取引所間の競争など適正に機能していないんじゃないのという意見もありうるところではあります。証券取引所規則を自主的に制定させ、競争させるアプローチと、証券取引所規則に民主主義による正当性をもたせるべきだというアプローチとどちらが正しいのかは、私程度では検証しかねますが、現行法の立場は前者が原則ではないでしょうか。

カネボウの上場廃止で政治的圧力がかけられたように、民主主義によるアプローチが機能するのかどうかは議論の対象になります。証券取引所は、規則を上場企業に遵守させる義務を負う(証券取引所152条1項)のに、上場廃止基準に合致した企業を政治的意図で上場廃止させない要求をしてくるなんてとんでもない話です。そもそも政治が民主主義的アプローチで規制をかけよう、かけさせまいとすれば、証券取引法で一律に規制をかけることもできるわけで、なにがなんでも証券取引所規則に民主主義的な正当性が必要とも思えません。

証券取引法149条で業務規程等の変更に内閣総理大臣(金融庁)の認可が必要とされている点で、いずれにせよ、上場基準の変更には金融庁のお墨付きが必要(行政法は詳しくないんですが、認可しない行政処分を争うのは無理筋っぽいですよね?)なので結論は同じかもしれません。少なくとも、政策的には個々の取引所の自主性を重視してもいいんじゃないのかという気がします。(注:そもそも証券取引所149条1項の「定款、業務規程又は受託契約準則」に上場審査基準および上場廃止基準は含まれるんでしょうかね?同法113条からすると含まれるようにみえますし、同法149条2項で「規則」と「業務規程」を区別している点からすると含まれないようにもみえますが。)(辰のお年ごさんのコメントで疑問が解決しました。ありがとうございました。)

ここでの議論は、黄金株をどうしろという議論ではありません。無茶苦茶な規則案ならともかくとして、そういう立場もあるなあという程度の規則案が出てきたのであれば、顧客である企業側が他の市場にいくかどうかを検討すべきという立場もありじゃないかなと思ってみた次第です。東証以外があまり選択肢にならない企業さんもいらっしゃるでしょうが、我慢ならんのであれば他の市場に移っても思ったよりも被害は少ないかもしれませんし、長期的には証券取引所間の競争が促されていいんじゃないかと。
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by neon98 | 2005-11-30 05:21 | Securities
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