証券取引所がガバナンスを決める時代?
急に真面目にエントリを書き出したから暇なんじゃないかと思われるのがつらいですが、事実なので(^^)しょうがないか。サンクスギビング明け以降、手持ち案件の動きが止まってしまいまして、論文読んでお勉強中でございます。

前回のエントリで、証券取引所間の競争があるのだから、上場基準に関してはそれぞれの規則に委ねた方がいいのではないか旨の意見を書いてみました。証券取引法制は、証券詐欺責任、SECルールおよび各証券取引所規則まで考慮に入れますと、日米では相当差異があります。それでも、基本的な証券取引法の枠組みとしてはアメリカ法の議論が参考になるはずですので、自分自身の勉強のおさらいとして、少し基本知識を整理することにします。

1. The Securities and Exchange Commission(SEC)

SECは、1934年証券取引所法(1934年法)により設置され、連邦証券法を所管する機関です。Corporate Finance, Market Regulation, Investment Management, EnforcementなどのDivisionに分かれています。SECは、連邦議会による授権のもとで規則制定権限を持ち、証券法を執行し、ノーアクションレターなどを通じて実体法の解釈にも影響力を有しています。SECは、Rule 10b-5という証券詐欺の規則を定め、その解釈を拡張してインサイダー取引を摘発し、またアナリストの利益相反問題なども摘発し、サーベンス・オクスレー法の授権のもとでレギュレーションFD(Fair Disclosure)を制定するなど、連邦証券法の準立法機能・法執行機能を積極的に活用しています。

2. Self Regulatory Organization (SRO;自主規制機関)

National Association of Securities Dealers (NASD;全米証券業協会)や各証券取引所(NYSE含む)が自主規制を行う機関・団体として存在しています。NASDは私的な非営利の団体で、ブローカー・ディーラーをその会員としています。1934年法は、NASDはNASDAQの少数株主でもあり、規則制定を通じてブローカー・ディーラーと、店頭公開市場を規制しています。
d0042715_619460.jpgNYSEは、その規則において上場会社の要件を定めており、Corporate Governanceについても要件を定めています。これによると、上場会社は過半数の独立取締役を必要とし、独立取締役のみで構成される監査委員会・報酬委員会・指名委員会を保有しなければなりません。NASDAQにおいても細部の差異はあるものの、同様の要件が定められています。
SECは、SROの規則制定について承認権限を有し、承認がない限り規則は効力を有しないことになります。

3. なぜ証券取引所がCorporate Governanceに介入するのか

日本人の感覚だと証券取引所がCorporate Governanceに介入し、取締役会の構成まで定めてしまうことに違和感があるかもしれません。私も実際知ったときにはすごく驚きました。アメリカにはNASDAQという代替市場が存在するとはいえ、大手上場企業のほとんどはNYSEに上場しており、しかもNYSEとNASDAQがいずれも上場基準の中にCorporate Governance Requirementを組み入れたときには事実上強制力を有することになるからです。幾らSECが認可権限を有しているとはいえ、議会を通さないでCorporate Governanceに関する基本的な事項を証券取引所が定めることがいいのかという問題はたしかにあると思います。

アメリカでは会社法が州法とされており、連邦政府が画一的にCorporate Governanceについて規制をかけることは会社法の分野においては不可能です。それでもなお、議会はサーベンス・オクスレー法を同じようなタイミングで審議していたのですから、独立取締役などの要件を証券取引所規則ではなく、連邦証券法の分野に取り込むことは不可能ではなかったように思います。

規制自体が仮に妥当だとして、なぜ議会による審議を経ない証券取引所規則で規制をかけることにしたのか?これは立法過程・審議過程を見てみないとわかりません。Corporate Governanceに関する上場基準は、SECに報告され、SECを通じてパブリックコメントに付されています(例えば、これが公表されている意見の一部です。)。ざっと幾つかを斜め読みしてみたところ、基準の中身についての賛成・反対はあっても、なぜ証券取引所なのか?という観点からの意見は見当たりませんでした。法律上取引所が規則を定めることは可能なのだから反対してもしょうがないということなのかもしれないし、特段疑問に思わないのかもしれません。立法者・規則制定者の意思は不明ですので、以下は私が考えた理由です。
一部の企業に対してより厳格な企業統治機構を義務づけるとした場合に、取引所規則による方が柔軟な対応が可能であり、投資家および企業のニーズに合致する。
いくらなんでも零細企業に独立取締役やら委員会制度を強制するわけにはいきませんので、一部の大企業のみに厳格な企業統治機構を要求することになります。ただ、規模による違いを設けるとしても、超巨大なオーナー企業もあるでしょうし、投資家にアピールするよりも意思決定の迅速さを重視する企業もあるでしょう。投資家からしても、ある程度統治機構に差異があっても情報の開示さえなされていれば投資の意思決定は可能であるといえるのではないでしょうか。

例えば独立取締役の要件はNYSEとNASDAQとの間で微妙に違いがあります。新興企業が多く上場しているNASDAQにNYSE上場企業と同じ要件を課すのは新興企業に過大な負担をかけますし、投資家側としてもNASDAQ上場企業の統治機構がより「遅れている」と認識さえしておけばあとは選択の問題ということができます。巨大企業でも100%オーナー会社であれば、オーナーが一人で意思決定したっていいはずで、企業規模のみを基準として企業統治構造を区別するよりも優れた方法といえるように思います。証券取引所の自主的な意思決定(+SECの承認)にCorporate Governanceのモデルの一部を委ねることも、証券取引所がどのような段階の上場企業を惹きつけたいのかにより要求水準が異なるでしょうから、一定の合理性があるように思います。

4. 証券取引所はどう競争するのか?政府の役割は?

とはいえ、証券取引所が誰を向いて競争をするのかを考えることは重要でしょう。幾ら公益性を有するとはいえ、運営費用、システム投資費用を捻出していくために収益は必要不可欠です。収益を確保するために特定の誰かを向いて取引所が運営されないように、Race to bottomを回避するための政策は必要でしょう。また、競争なんて本当に存在するの?という競争法的観点も必要かと思います。

d0042715_7562747.jpgほとんどレッセフェールに近い主張として、Corinne Bronfman, SYMPOSIUM: MARKET 2000: The SEC’s Market 2000 Report, 19 Iowa J. Corp. L. 523という論文を見つけて読んでいたのですが、これはどうかなあと思ってしまいました。証券取引所の競争が投資家の利益になるという一般論を議会が認識し、現在の制度を設計したというあたりまではうんうんとうなづきながら読んでいたのですが、誤解を恐れずにばくっといえばSECは各証券取引所が各上場企業に対してしているのと同じように、適切な情報開示だけ促しておき、直接の規制はするなという主張をされており、賛成しがたいものがありました。具体的には、SECがNYSEに対して零細市場とリンクを強制していることは零細市場によるフリーライドを許し、NYSEの投資意欲をそぐとか、NYSEが取引情報を即時に開示させられることによりポジションを開示されたくない投資家はロンドンに逃げるとか、色々と指摘されてはいるのですが、独占市場における優越的地位の濫用の可能性や、情報を持たない小口投資家に対する公正という観点を無視しているといわざるをえず、なんだかなあと思ったわけです(これだけではわからないでしょうから、読みたい方は原文を入手してください。これ以上書きますと話がずれてまいります。)。

証券取引所が一部の会員、一部の投資家または上場企業にターゲットを絞って競争をはじめ、Race to bottomになってしまった場合は当然政府による揺り戻しが必要でしょうし、それぞれの取引所が占めている地位も考慮して競争を加速させる政策も一時的には必要かもしれません。その意味で、規則制定権に関する政府権限、立法権による対応事態は必要な手段として把握されるべきでしょう。

5. まとめ

各証券取引所の上場基準にあまり特徴が見られないことは、それぞれの証券取引所が競争している存在であると認識していなかった証左かもしれないし、政府規制によるものかもしれません。日本の証券取引所規則を全て確認したわけではありませんが、例えば大証の上場基準はほとんどそのまま東証のコピーで、数値だけが違うという状態です。敵対的買収防衛に対する厳格さなんていう部分でも独自性を出せたら、それぞれの企業の考え方により存在価値も高まるのではないかななどと関西人の私は考えてしまいました。新興市場向けの市場だと差別化を図ることはできるわけですが、東証の大阪版というだけだと、成長企業はどんどん「卒業」し、新しい企業はマザーズなど他市場にとられ、大証はジリ貧になってしまうように思います。大証の寂しいIPOデータについては、HardWaveさんのグラフを参照してください。大証、頑張れ!

現実には、東証の圧倒的な力の前に、証券取引所が切磋琢磨するという状況にはないのかもしれませんが、長期的にはそれが機能することを信じ、かつ政府が競争促進策(具体的には弊害が多くて難しいんですが。。。)をとり、企業にとっても投資家にとっても適切かつ多様な選択肢が提供されることを願いたいところです。そのためにも大証、頑張れ!
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by neon98 | 2005-12-01 06:09 | Securities
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