あるlawyerの悩み
Blogには主に会社法・証券取引法の話題をとりあげているが、この分野での自分の専門性はまだまだ高くないと思っている。米国を含めて各国と比較して、日本の弁護士が今まで個人事務所という形態を多くとってきて、さほど専門性というものを意識してこなかったのも事実であり、これからの時代は専門性が高くないと食べていけないという言い方がされるのも事実である。でも、ある法分野での専門性を高めるだけでいいのかと聞かれるとそうじゃないだろうと思っている。

こちらの法律事務所で研修をしていて、あらゆる業務をシステムとして機能させようという意図を感じる。Lawyer全体でのマーケットの違いを反映してか、法律産業向けのソフトウェアなどがたくさん開発され、Discovery向け、Due Diligence向けの文書管理ソフト、法律文書作成支援ソフト、数々の法律関係データベースが整備されている。個人の専門領域もある程度しっかり意識されていて、不動産のみを扱う弁護士、Private Equityのみを扱う弁護士、証券取引法のFilingのみを扱う弁護士、独占禁止法のHSRFilingのみを扱う弁護士、保険の訴訟のみを扱う弁護士を扱う弁護士と様々であり、当該分野での知識はすごい。

日本でも例えば外債発行を行う業務は全弁護士の98%は「はい?」という反応しかできないであろうし、何か核になる分野での顧客開拓・維持が必要なのはそのとおりだろう。個人事務所で営業をされている弁護士でも顧客との間でよく経験を積まれている業務があって、得意分野なるものは存在している。判例のデータベースなどは裁判所も協力して全裁判例をデータに取り込んで利用できるリソースを開発すべきだろうし、法律文献も雑誌社ごとにDVDなどのデータベースに落とすのではなく、WestやLexisのように業界横断的なデータベースが欲しいところだ。組織化・専門化という流れはこれからの加速していくだろうということは前提として、果たしてそれだけでいいのかということはよく考える。

d0042715_2272665.jpg僕自身はなるべく特定の分野だけに限定せずに知識を習得しようと努めてきた。意識してきたのは、お客さんから相談されたときに「これは危ないな」と最低限気づくことができる能力であって、これは分野横断的な経験がないとなかなか対応できない。何も知らない分野に取り組むことは組織体としてはまさしく非効率にほかならないのだろうけど、問題点発見能力が必要とされる場面をクリアできる能力というのをまず意識しないと本当にお客さんに迷惑をかけてしまうことになりかねないので、まずは最低ラインとしてのGeneralist的能力は必要だと思っている。

顧客が仕事を依頼するとき、○×法律事務所に依頼するというのか、Aさんに依頼するというのか、色々と考え方があるのだろうけど、基本的には個人としてのつながりが先にたち、それに組織としてのバックグラウンドを追加して考慮するという思考なのだと思う。担当の弁護士が案件を通じて、もっともよく当該顧客の業務、システム、人的関係、会社文化を理解していて、相性があうから継続されているのであり、顧客側としても基本的には手持ちの弁護士リストの中からどこに依頼するかを決定する。依頼者自身の業務自体が専門的な特定分野に限定されている場合もあるだろうし、案件ごとに弁護士を変える場合も多いだろうけど、会社の法律案件を全部持ってこられるお客さんも少なくない。本当に対応不可能な事案というものはさすがに倫理上お断りすることになるのだが、基本的には相談を聞き、Conflictがない限りは受け、自分でまたは他の弁護士との共同により対応するわけで、事案の整理・論点発見・対応方針の決定の際には特定の法分野のみの知識では極めて不十分である。また、「専門」なんてものは顧客が決めるのだという意見にも一理あって、ある顧客はある弁護士のことをM&A専門だと思えば、他の顧客はPL法専門だと思ったりする。結局は相性の問題なのだろう。

個人の幸福追求という観点からしても単純作業のみをしていたいという人はあまりいないだろうし、ローファームという組織面からしても新人アソシエイトをマシーンのごとく単純作業に酷使するというのは求人活動に支障を及ぼすと思われる(実際には多かれ少なかれマシーンになる場合は存在しているだろうが・・・)。米国の弁護士が専門については詳しいけれど、少し専門を外れるとすぐわからないと平気でいうという面もあるわけで、すごく基本的な質問に対しても対応できないのには驚く。狭い対応能力は必然的に組織的バックアップを要求するが、顧客サイドとしても案件にずらずらと10人以上も弁護士を並べられてもコストとして割りあわない(僕が依頼者の案件を海外法律事務所に相談したときに同じことをされ、何人かの弁護士にはお帰り願ったことがある。)。

リーガルマーケットの大きさはリーガルリスクの大きさや法律分野の複雑さ・予見困難さと比例していくだろうから、日本のリーガルマーケットが米国と同様の規模になることはありえないと思っている。米国の場合、判例法主義や連邦・州法の二段構造のため、法を発見することが困難であるのに対し、日本の場合はその場で調査をしても対応が可能である場合が多い。かけられるコストの問題、対応可能性の問題からして、一つの狭い法分野のみに固執していくのは不適切であり、危険でもあると思う。

法律のみを知るというだけではもちろん足らず、会計・税務・顧客業界の慣行なども知らないといけないわけで、私自身は仕事を通じて法律以外のことをたくさん学んでいくことが非常に楽しいし、よいサービスを提供するために必要だと思っている。個人的には、M&Aについての専門性を高めていく(専門といえるほど狭い法分野とはいえないのだが・・・)ために論文を読んだりすることはもちろん好きなのだが、案件を通じてお客さんの業界のことをたくさん教えてもらったり、取引の実態に合致した契約書を作成するために業界のことや在庫変動の時期とか色々と細かく詰めてことの方が実は楽しい。基本的な実務家としての私の欲求は何かの法分野を深く追求するというよりも、ある事件をお客さんが喜ぶようなかたちに工夫を凝らしていき、喜んでもらうことであって、実は分野などどうでもいいのだと思うことも多い。

これだけ法律がどんどん変わり、色んな種類の仕事が世の中に登場すると全部やろうとするのはもう無理だということは認識しながらも、色んなことを知りたいし、やってみたいという欲求とどう両立させるのかが個人的には非常に悩ましい。

依頼されたことをきちんとして依頼者の信頼に応え、かつ、一定の興味のある分野は追いかけていき、飽きたらまた違うことを勉強し、助けてくれる人脈も大切にし、専門外のことにもアンテナを張り続けるという努力(不可能ですかね?)をしていくと、何かの偶然や顧客の勘違いでいつかは何かの分野の第一人者とは言わないまでもお客さんに「○×に強い」と評価してもらえるようになるのだろうか?などと思うことがある。

まあ深刻に悩んでいるわけではなく、最終的には考えてもしょうがないわなーと思うわけだ。人生など計画的に生きようとするのが間違いであって、その都度楽しいと思うことを頑張りましょうねという以外の答えはないのだろう。帰国したら何しようかなあ。
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by neon98 | 2005-12-17 22:07 | よしなしごと
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