なぜ検察はリーサルウエポンを使うのか
留学の関係でしばらく刑事事件扱っていませんし、刑事訴訟法の本は持参しておらず調べるのにも限界がありますし、経済活動に関する刑事事件などの経験もありませんので、的外れなエントリになるかもしれません。と最初にExcuseをしておきます。「訴因」とか「公訴事実」などの用語の正確な使用方法に自信がありませんが、その点はお許しください。

他のBlogで共有されているであろう問題意識をわかりやすく書いていくことが趣旨ですので、細かいミスは見逃して(OR黙って非公開コメントで教えて)いただけたらうれしいです。逮捕を証拠保全・逃亡防止というよりは取り調べ目的で利用する日本の刑事司法には批判的なのですが、その話はおいておき、今回は偽計・風説の流布という適用法令の問題点について思ったことを書いてみたいと思います。

1. 訴因の特定

「偽計」「風説の流布」といった規制の必要性は理解できなくはないのですが、誰にでもすぐに理解できるような明確な概念ではありませんので、罪刑法定主義の観点からすると、概念の明確化をするか、少なくともリーサルウエポンとしての利用にとどめてほしいものだと思っています。刑事事件という重大な結果を伴う規範は特に行為規範として何が禁止されていて、何が禁止されていないのかを明らかにしないといけないというのは憲法31条の要請です。また、刑事訴訟法的観点からしても、裁判官に対して事実認定の対象を明確にし、被告人・被疑者に対して攻撃防御の方法を明らかにすることは必要不可欠です。検察官と被告人の立証責任の分担からすると、検察官は構成要件に該当する事実を主張・立証し、被告人はそのような事実は行っていないと主張・立証するのであって、被告人は摘示されていない事実は反証する必要がありません。

おぼろげに、検察修習を思い出しながら、例えば殺人事件の起訴状をざくっと書いてみると、「被告人Aは、平成○年○月○日ころ、東京都○○区○○…所在のスナック『ポンポコ』において、Bから『お前の母ちゃんデベソ!』と執拗に馬鹿にされたことに立腹し、殺意をもって、刃渡り○センチの包丁をもってBの心臓部を刺傷し、同日○時ころ、出血多量によりBを死亡させたものである。」という感じになります(かなりいいかげんな書き方なので雰囲気だけ理解してください。)。このケースにおける被告人の反証対象は何でしょうか。

スナックは『ポンポコ』ではない、『お前の母ちゃんデベソ』ではなく『お前の母ちゃんデブ』だったという反論は明らかに違いますね。被告人が殺人罪を犯していないと主張立証したいのであれば、例えば(1)殺意はなかった(傷害致死である)、(2)刺傷行為自体を行っていない(実行行為の否認)などと主張することになります。(2)としては、そもそもBと会ったこともないとか、その当日はそのスナックに行っていない、刺したのは脚であって死亡原因はCによる暴行であるなどと主張することになります。

殺人罪の構成要件からすると、「Aが殺意をもってBを死亡させる具体的危険性のある行為を行い、Bを死亡させた」ということで足るのですが、攻撃防御の方法を特定するという観点からすると、「○月○日ころ、某所で、ナイフで刺して殺した」のか、「○月○日ころ、某所に行くとCに刺傷される計画があることを承知のうえで、その事実をBに告げず、その結果Bが死亡した」のかで全く攻撃防御対象が異なってくるわけです。むろん、死亡推定時刻がわからないとか、使用凶器が不明であるなどの事情により、特定の度合いが異なることは実務上も認められています。訴因をどこまで特定するのかはこのあたりのバランス論の問題であり、何年前の事件なのか、公衆の面前でなされた行為なのか、被告人が否認しているのかなどでどこまで特定できるかが変わってくると理解してもらえればいいと思います。

2. ライブドア事件にみる被疑事実の特定

まだ起訴がなされていない段階とはいえ、捜索差押・逮捕がなされているわけですからそれなりの被疑事実の特定がなされているはずです。Bに対する殺人の容疑がかけられているケースであれば当人は「俺は殺していない」と明確に否定できるわけですが、「風説の流布」「偽計」と言われた場合には「俺は風説の流布・偽計はしていない」と否定する前に「風説の流布・偽計ってなんなの?」と反応するのが通常だと思います。まず、「偽計」ないし「風説の流布」と言われたところで行為規範として何が禁止されて、何が禁止されていないのかが明確ではありません。

刑罰法規が本当に不明確であるとすれば憲法違反という議論になるわけですが、そこまでの議論にならなくても、例えば、「俺の会社はすごい会社だ。」という発言をとらえたものなのか、「俺の会社ではエイズのワクチンを開発した。」という発言をとらえたものなのか、わからなければ攻撃防御もしようがないわけです。今回の検察の方針を報道から推察していくと「一連の行為」を実行行為としてとらえているような気がしますが、この場合被告人側はどう防御していけばいいのでしょうか。

この手の事案の公訴事実は極めて長くなりがちなので殺人事件のように例は示せませんが、おそらく検察は(1)ライブドアあるいは関係者によるファンドの実質支配、(2)ファンドによるX社株式の保有、(3)これらの事実を開示せずに株式交換を実施し、株式交換の事実のみを開示、(4)ライブドア株式の株式分割の実施(5)ファンドによるライブドア株式の売却、(6)ライブドアへの売却資金の還流、(7)これらが一連の取引である(X社買収にあまり意味はなく、自己株式との交換ができればなんでもよかったなど)ことなどをつらつらと書き、偽計ないし風説の流布であると主張してくるものと思われます。

被告人としてはそれぞれの主張に対して反証を行うことになるのですが、仮にいずれか一つに反証が成功した場合はどうなるのでしょうか。例えば、(1)実質支配という関係にはなかった、(3)少なくとも会計上の連結基準には該当せず、軽微基準に照らしても開示義務がなかった、(4)株式分割は違法ではない、(5)(6)投資した資金を回収するのは正当な経済行為である、(7)買収は買収自体として正当な目的のある行為であるなどと個別に反論できることはできる(と思われる)わけですが、問題はこれらが犯罪の必須の構成要件として主張されているものかどうかがわからない点にあります。

検察が一連の行為という取扱いをしてくるとすれば何らかの理由があるはずで、そこに個々の行為自体の違法性を問うことが難しいという理由があるとすれば、どうなのでしょうか。一連の行為を裁くという発想のコストは極めて大きいように思います。(1)開示義務が定められていないとしても開示しないといけないかもしれない、(2)オフバランスが違法になるかもしれない、(3)株式分割が違法になるかもしれない、などと議論が波及しかねないのではないでしょうか。

公正なる会計慣行に違反し、粉飾だといい、検察が虚偽記載で勝負するのであれば理解できますし、裁判所で決めてもらえればいいことです。が、その勝負が難しいから他の要素も加味してもっと曖昧な偽計あるいは風説の流布で勝負するとすれば、そのインパクトは日本の社会にとって健全なものにはならないように思います。

もうこの問題はやめようと思ったのですが、やはり書いてしまいました・・・。
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by neon98 | 2006-01-24 12:48 | LEGAL(General)
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