司法取引の功罪
有罪を認め、検察官の求めに応じて捜査に協力し、法廷で証言する代わりに刑を軽減してもらうという司法取引は米国では実際よく行われているんですが、このような司法取引によって得られた証言の信用性はあるんだろうかと常々考えていました。

米国の刑事関係の法律を学んだわけではないので、司法取引の詳しい制度設計を知らないのですが、協力者が有罪答弁をし、減刑を受けたとしても司法取引に定められた義務(証言協力義務等)を果たさなければ再審になるとか、全ての協力を終えた後に初めて刑事裁判にかけられるということになるようです。司法取引により関係者の協力を得て巨悪を摘発することができることはメリットでもあるんですが、協力への強いインセンティブを持った人間の証言の信用性をどう考えたらいいんだろうという問題があるように思います。

例えば大和銀行巨額損失事件においては損失を与えた超本人であるトレーダーの井口俊英氏が司法取引に応じ、ニューヨーク連邦地検による大和銀行および支店長起訴に協力し、損失隠し等の事実を法廷で証言しています。このあたりの事情は、井口氏本人による『告白』(文藝春秋)に詳しいです。余談ですが、この本を読むと井口氏自身に反省の色も何もなくて、大和銀行が損失を開示すべきではなかったなどと主張し、また大和銀行に「裏切られた」ことに対する私怨などが色濃くでており、私自身は彼が客観的事実を書いているものかどうかもうひとつ自信が持てません。

Enron: Legal Commentaryというテキサスの弁護士が書いているブログでたまたま同じようなエントリ(Do people really plead guilty to things they didn't do?)が書かれていました。

彼によれば、エンロンの調査の途中で、後に高裁段階で判決は覆されたとはいえ、Dynegyの中間管理職のJamie Olis氏が地裁で24年の懲役刑を宣告された事実は関係者を震撼させたといいます。有罪答弁をして数年間刑に服するという安全策をとるか、20年以上の懲役刑を受けるリスクをとるかという選択を迫られるというわけです。もう一つの問題は経済的な問題です。トライアルになれば、弁護士報酬(交通費・宿泊費)、陪審コンサルタントなど数億円の金がかかるといいます。これらの金銭を準備できる人はほとんどいないだろうし、準備できたとしても勝訴できる見込みとの引き換えで考えざるを得ません。そういう理由で司法取引で自分が犯してもいない犯罪について有罪答弁をする人というのは予想より多いのではないかという意見が表明されています。

これに付け加えるとすれば、司法取引における捜査協力義務というのを明確に規定することの困難性が問題としてあげられるような気がします。捜査に協力するということとは法廷で事実を述べることと定義できると思うのですが、被疑者に有利な事実を述べた場合に検察官側がどう受け止めるのかが不確実であるがゆえに、被疑者に不利な事実のみを述べるというインセンティブが与えられないだろうかと不安になります。証人が事実を述べたのにもかかわらず、検察官側が証人は法廷で真実を述べなかったので司法取引における前提条件を充たしていないと主張してくる可能性というものを考え、偏った証言内容になる可能性があるような気がします。

d0042715_3493226.gif実はこれは日本でも同じ話で、量刑面で捜査協力や自白の事実が考慮されるわけですから、共犯者の証言にバイアスがかかる可能性というものは常に意識する必要があるように思います。協力者による証言そのものを禁止するわけにはいきませんので、運用のレベルでバイアスの危険性を考えていくべきだと思います(従来から刑事訴訟法では言われてきた論点なのですが、裁判員制度との兼ね合いをどうするのかという問題は残ります)。

刑事事件というと自分とは関係ないと思いがちですが、実はそうでもないんじゃないでしょうか。弁護士が防御の必要性だけを強調したって他に考慮すべき要素もあるわけですから、どこでバランスをとるかを考えたらいいんだと思うのですが、その場合には自分が悪事を働いていなくても何かの間違いで犯人扱いされる危険性は常にあるのだと思って考えると全然違うと思うのです。例えば大多数の痴漢被害は現実に発生していると思いますが、なかには何もしていないのに「悲鳴を出すよ」と脅しながら金銭を要求してきた事例などもあったようですし、自分が被害者になりうると同時に、被疑者にもなりうる社会であることを認識して考える場合って、考え方が違ってくるんじゃないですかね。
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by neon98 | 2006-02-08 03:42 | LEGAL(General)
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