シリーズ 日本のCorporate Governanceを考える(10)-株主中心主義と倒産状態(下)
そろそろ出題者がほとんど忘れかけていたシリーズ 日本のCorporate Governanceを考える(8)-株主中心主義と倒産状態(上)を放置したままという現実に目を向けねばなりません。わかりやすい出題意図は株主中心主義なるものが倒産状態に陥ったときにどうなるのか、日米を比較してみようというものでした。以下の記載は、倒産関係法の本を一切持参しておらず、条文程度しか確認していませんので、多分に誤りがある可能性があります。

1. 取締役は誰に対して義務を負っているのか

新会社法では「株式会社と役員…の関係は、委任に関する規定に従う」(330条)としており、受任者が善管注意義務を負う名宛人は委任者である会社と考えるのが素直でしょう。忠実義務に関する355条は明確に株式会社を名宛人としている点からもそういえます。

一歩進んで他のステークホルダーとの関係について考えると、例えば江頭先生は「「会社の利益」とは、窮極的には株主(社員)の経済的利益であり、それを最大にすべき義務である」とされており(江頭株式会社法第二版330頁)、株主利益最大化という目的のために義務が存在することは明記しておられます。

余談ですがここから先、株主利益最大化をどこまで貫くかはかなり学説間の差異が生じるところです。寄付行為に関する八幡製鉄所事件を例にとると、社会的に相当である限り株主の利益に寄与しない寄付を取締役はなしうると考える人(江頭先生)と長期的に株主の利益になる限りにおいて寄付をなしうると考える人(鈴木竹雄先生)がおられるようです。

2. 倒産状態の場合

江頭先生は「株式会社・有限会社が債務超過またはそれに近い状態である場合には、取締役がイチかバチかの投機的経営を行うことは、残余請求権者でありかつ有限責任である株主(社員)の利益を最大化する方策ではあるが、会社債権者の損害を拡大する蓋然性が高いので、取締役の任務懈怠となり第三者(会社債権者)に対する責任を生じさせる。」と明記しておられ(江頭同16頁)、注意義務の変遷を認める立場をとっておられます。この説が日本の学界でどの様な地位を占めるのか、江頭先生の本(しかも第二版)以外に基本書を持参していない私には全くわかりません。

また、江頭先生の見解にたったとしても、株主に対する注意義務を否定することは別の問題のように思います。投機的経営を行わないという行為を選択する局面では、取締役が株主の利益を最大化するために行動していないといえるのでしょうが、株主の議決権行使まで否定することはできないと思うのです。仮に注意義務の名宛人が変容するといったとしてもそれはギャンブルをするなという局面だけの話であり、株主を無視してよいとまではいえないでしょう。

債務超過に近い状態においても義務が変遷するとすればどの時点からなのか、債務超過の評価はどうするのか、著しく困難な判断が要求されることも事実であり、それがゆえに法は減資の条件として債務超過であることと、裁判所の許可があることというハードルをもうけて株主を保護しているのだと思います。

私なりの回答としては、DIP型民事再生手続きのもとでも取締役は従来通り株主に対して善管注意義務・忠実義務を負うが、投機的経営を行わないという意味においてその内容は変遷しているということにしておきたいと思います。仮に債務超過であったとしても、裁判所の許可を得て減資がなされるまでは答えは同様でしょう。

3. 取締役が解任されたら?

ヤバイゾはセイジツをスポンサーとして選定したのはセイジツが100%一括弁済という条件を提示し、コワイゾよりも弁済率・弁済時期・弁済の確実性において明らかに有利と思われたからでした。一応債務超過ではないとはいえ、ヤバイゾの株式は既に上場廃止になっており、値段がつかないことをいいことにし、コワイゾが株式を買い集めてきたときはどうすればいいでしょうか。株主に歯向かい、債権者利益を保護することが許されるのか、許されるとしてその手段はあるのかという問題です。

ギリギリまで詰めると答えはよくわかりません。例えば私的整理を要求する場合は株式を残したまま債務免除を要求したりしますが、それが取締役の義務に反するとは到底思えないのです。株主利益最大化のためにより多くの債務免除を求めることはまさに取締役の職務といえなくもないわけで、それを批判されることはないような気がします。単純にやりすぎると債権者からの賛成が得られなくなるし、監督委員からの同意がもらえないよというだけの話で、取締役の義務が変わるとまでいう必要があるのか、実はよくわかりません。

少なくとも法的整理に入った後は違う行動原理だろうといわれるとそんな気もしますが、法的整理であっても理屈のうえでは株主に対する分配も想定されていて、債権者だけを向いて行動しなさいということはいえないように思うのです。まあ、幸いというか、日本の倒産事案は弁済率が著しく低く、株主への分配なんてありえないものばかりなので、債権者のことだけ考えろという規範もそんなにおかしくはないんですが。

まあ理屈はともかく、結論からすると、一度公平な手続きで決めたスポンサーですから、それを株式の買占めという行為で結果を覆させるわけにはいかないでしょう。コワイゾからの議決権行使を制止するために理屈を捏ねまわすことはできますが、私ならDIP型で継続することに限界があるとして、管財人を選任してもらっておしまいにするでしょうね。
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by neon98 | 2006-02-25 04:57 | Corporate Governance
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