PSLRAの評価(2)
さて、前回の続きである。検証する方法論が面白い。

2. 仮説の提示

PSLRAによる訴訟制限(施行やPleading standardを厳格に要求する判決など)が株価に与える影響は正の関係にあり、市場参加者は概ねPSLRAが株主の利益に合致すると信じているようである。但し、市場参加者がPSLRAの影響を正しく判断するだけの情報へのアクセスと能力を有しているかは定かではない。従って株価研究は間接的な証拠でしかない。

PSLRA施行前後における訴訟提起数や訴訟の種類についての研究も存在するが、これらはPSLRAがnon-meritoriousな証券訴訟を減少させる機能を有しているかどうかについて直接的な証拠にはならない。

そこで、このペーパーにおいては以下のような仮説をたて、その検証を行う。

(1) PSLRAが施行される前と比較して、PSLRAにおいて提起される訴訟を説明するには、積極的会計、内部者取引およびガバナンスの要素がより重要である。

高められた主張責任により原告側はより客観的な詐欺の証拠(会計基準違反や内部者による株式大量売却)などを求められる結果、訴訟提起時点におけるmeritがPSLRAにより変化する。

(2) PSLRAが施行される前と比較して、PSLRAにおいてなされる会計粉飾や内部者取引の主張を説明するのに、積極的会計および内部者取引がより重要である。

Forward-looking statementの主張がより困難になったこと、主張責任が強化されたことから原告側の主張はForward-looking statementに関するMisstatementを主張するインセンティブを欠き、会計粉飾や内部者をより主張しやすくなるはずである。また、投資家を欺き、自らが詐欺により利益を得たという客観的証拠はScienter(故意)を推認する。

(3) PSLRAが施行される前と比較して、PSLRAにおける訴訟結果を説明するには、積極的会計、内部者取引およびガバナンスの要素がより重要である。

訴訟において弱い主張しかない場合は原告側と被告側は訴訟コストを考慮した名目的な金額で和解をするはずである。ただ、原告側弁護士は、和解金額は常に主張の見込みを反映すると主張しているので、それが事実であるならば、merit factorsは和解結果を説明するにあたって(1)と同様に機能する。

3. データの抽出

(1) 証券詐欺訴訟を提起された企業郡の選別

サンプルとして抽出されるのはCRSPおよびCompusatに掲げられた全てのコンピュータハードウェア・ソフトウェア産業の企業である。まず、これらの企業郡からPSLRA施行前(1991-1995)に証券詐欺訴訟を提起された企業と施行後(1996-2000)に訴訟提起された企業とを識別する。

この時点でいえることは(a)施行前が51件にすぎないのに対し、施行後は68件となっていること、(b)施行前は会計に関する主張を含む場合が27.4%にすぎないのに対して、施行後の割合は57.3%となっていること、(c)内部者取引の主張についても同様に33.3%から75.0%に増加していることである。(b)および(c)の結果に関する一つの説明は、原告がPSLRA施行後においてもMotion to dismissに耐えうる請求原因を選択するようになったということである。他方、(b)に関しては単に近年の会計報告の質が低下しているとの説明も可能であるし、(c)に関してはストックオプションを中心としてインセンティブ報酬制度のために内部者取引事例が増加しているとの説明も可能である。

(2) 訴訟提起されていない企業郡の選別

その後、同様の企業郡の中から同様のサンプリング期間内に証券詐欺訴訟を提起されていない企業を抽出し、当該抽出対象企業郡からさらに訴訟提起された企業と同様の株価下落をしている企業を識別し、マッチングを行う。ここで得られる結果は、同様の株価下落を経験しつつも、訴えられた企業とそうでない企業との差異であり、原告側弁護士の判断過程を反映したものとなるはずである。

この時点でいえることはPSLRA施行後の方が訴訟提起のために大きな株価下落を必要としているということであり、この事実は弁護士がPSLRAの障壁を乗り越える動機付けとして大きな潜在的な損害が必要であるという説明と整合的である。

(3) 変数の把握

さらに、なぜ訴訟が提起され、解決されるのかを説明する要因として、(a)損害、(b)会計、(c)内部者取引、(d)ガバナンスという4つの変数をとりあげる。

(a) 損害:時価総額と取引高を把握する。この時点でいえることは、(i)時価総額と取引高は訴訟と正の相関関係がある、(ii)PSLRA施行前後において時価総額に特段の差異はみられないが、PSLRA施行後において取引高は上昇している、(iii)PSLRA施行前後にわたって、訴訟提起を受けた企業はそうでない企業に比較して、時価総額と取引高が大きいという事実である。

(b) 会計:決算修正(restatement)、異常発生高(abnormal accrual―営業活動や経済環境に帰着する通常の発生と区別される、経営者の裁量による収入認識)と売上増を把握する。この時点でいえることは、(i)PSLRA施行後に決算修正と売上増が顕著になったのに対し、異常発生高については特段の差異はみられない、(ii)訴訟提起されていない企業と比較した場合、訴訟提起された企業においては決算修正が有意に多い(特にPSLRA施行後においてその減少が顕著である)、(iii)訴訟提起されていない企業と比較して、訴訟提起された企業においては売上増が多いことであり、(iv)異常発生高に関してはPSLRA施行後に限り同様の現象がみられることである。

(c) 内部者取引:異常な内部者取引のみを把握する(従前と同レベルの内部者取引は除外する)。この時点でいえることは、(i)PSLRA施行後において内部者取引は増加している(オプション報酬制度の増加と整合的である)が、異常な内部者取引には特段の差異はみられない、(ii) PSLRA施行前後にわたり、訴訟提起された企業とそうでない企業との間において異常な内部者取引に有意の差はみられない一方で、内部者取引(異常な取引に限定されない。)をとりあげると訴訟提起された企業の方がそうでない企業よりも多い。従って、原告側弁護士としては過去の売買実績と比較して異常かどうかを考慮することなく、内部者取引の多い企業を訴える傾向があるといえる。

(d) ガバナンス:社外取締役の平均任期、忙しさ(社外取締役の平均兼務数)、独立性(社外取締役の割合)、社外取締役の持株比率、社内取締役の持株比率を把握する。この時点でいえることは、(i)PSLRA施行前後にわたり上記5つのガバナンス変数に有意の差はみられない、(ii)PSLRA施行前後にわたり訴訟提起を受けた企業の方が社外取締役の数が多い(これは訴訟提起を受ける企業郡が相対的に規模が大きいことに起因するのかもしれない)、(iii)PSLRA施行前後にわたり訴訟提起を受けた企業の方が外部取締役の持株比率が低い(有意の差がみられるのはPSLRA施行後においてのみである)、(iv)(予想に反し)PSLRA施行後においては訴訟提起を受けた企業の方が取締役の独立性が高い(筆者注:これも同様に企業規模に起因する可能性がある)。

(4) ロジット回帰モデル(Logit regression model)

ここではそれぞれの変数が訴訟にどのように影響するのかを検討するためにロジット回帰モデルを利用している。

(長くなったので続く)
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by neon98 | 2006-05-25 05:57 | LEGAL(General)
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