PSLRAの評価(3・終)
前回の続きである。

4. 結果

(1) 仮説1の検証―訴訟提起と各変数の相関関係

(仮説1) PSLRAが施行される前と比較して、PSLRAにおいて提起される訴訟を説明するには、積極的会計、内部者取引およびガバナンスの要素がより重要である。

PSLRA施行前において、損害額に関する変数である時価総額と取引高はいずれも重要である。これに対して主張の見込み(merit)に関係する変数は、内部者持株比率を除き、重要ではない。この結果はPSLRA施行前において訴訟提起を左右する要素は詐欺の可能性と無関係のものであるという主張を支持するものである。

PSLRA施行後においては、損害に関する2つの変数に加え、主張の見込み(merit)に関する変数のうち幾つかが重要になった。例えば、決算修正、異常発生高と訴訟提起との間に有意の相関関係が存在する。さらに、内部者取引も訴訟提起との間の有意の相関関係が存在するが、異常な内部者取引に限定した場合はそのような相関関係は存在しなかった。なお、忙しさ(社外取締役の兼任が多いこと)も訴訟提起との相関関係が存在した。

(2) 仮説2の検証―会計詐欺と内部者取引の主張と各変数の相関関係

(仮説2) PSLRAが施行される前と比較して、PSLRAにおいてなされる会計粉飾や内部者取引の主張を説明するのに、積極的会計および内部者取引がより重要である。

少しわかりにくいが、要するにここでは会計粉飾や内部者取引に関する主張がなされた訴訟対象企業において、実際に積極的な会計や内部者取引が多いといえるのかどうかという命題の検証がなされることになる。

PSLRA施行前においては、会計に関するいずれの変数(決算修正、異常発生高、売上増)も会計粉飾の主張と相関関係にない。唯一相関関係にあるのは内部者取引に関する主張のみである。これに対して、PSLRA施行後においては、決算修正が有意の相関関係にあり、内部者取引はそのような関係にない。従って、PSLRA施行後の方が会計粉飾の主張に成立の見込み(merit)があるといえる。

PSLRA施行前においては、内部者取引変数(内部者取引、異常な内部者取引)は内部者取引の主張と相関関係にない。他方、会計詐欺の主張との正の相関関係は認められ、ガバナンスの変数である社外取締役の平均任期との間で負の相関関係がある。これに対して、PSLRA施行後においては、会計詐欺の主張との有意の相関関係は認められない一方で、内部者取引との有意の相関関係が認められる(但し、異常な内部者取引との有意の相関関係は認められない。)。従って、原告側弁護士はPSLRAのもとでより注意深く行動し、成立の見込みのある訴訟を提起するようになったものの、異常な内部者取引であることを要求する司法判断には注意を払っていないことになる。

PSLRA施行前の内部者取引と会計詐欺の相関関係は、ルーズな制度のもとで原告が詐欺の性質を厳密に特定していなかったことを示している。PSLRAが主張責任を厳格化し、特定する努力を著しく欠く主張に対して制裁を加えるようになったために、PSLRA施行後においては、積極的会計と会計詐欺の主張、内部者取引と内部者取引の主張とには相関関係がみられるようになってきた。異常な内部者取引に限定した方が司法判断に近いが、Netでの内部者取引で訴訟を提起したとしても制裁まで心配する必要はなく、単に訴訟が却下されるだけにすぎない。

(3) 仮説3の検証―訴訟結果と各変数の相関関係

(仮説3) PSLRAが施行される前と比較して、PSLRAにおける訴訟結果を説明するには、積極的会計、内部者取引およびガバナンスの要素がより重要である。

仮説3の検証においては損害に関する変数は検討対象から除外されている。和解という従属変数はもし訴訟が却下され、名目的金額で和解された場合には0となり、名目的金額以上で和解された場合は1となる。

PSLRA施行前においては異常な内部者取引のみが単独で有意の相関関係を持つ。これに対して、PSLRA施行後においては決算修正と内部者持株比率が有意の相関関係を持つ。決算修正がなされた場合に裁判所が却下しにくいことは自明であり、和解が多く成立することは理解しやすい。内部者持株比率が多い場合に和解が成立しやすいことは、経済的に裕福なものがリスク回避的である可能性を示唆している。注目すべきことは、内部者取引という変数が勝訴的和解との間で有意の相関関係を有していないことである。雑な訴訟提起の判断をした原告は報われないということであろう。

5. 結論

まとめると、(1)PSLRA後は詐欺の可能性に関係する要素(特に決算修正と内部者取引)が訴訟提起、主張、訴訟結果を説明する重要なものとなる、(2)詐欺の可能性に関係する要素はPSLRA前は重要ではなかった、(3)損害に関係する要素はPSLRA施行前後にわたり重要である。損害に関係する要素は詐欺の有無と無関係であるが、弁護士の報酬とおおいに関係のあるということだろう。PSLRA施行後において詐欺の可能性に関係する要素が訴訟活動の要因となっていることを考慮すると、PSLRAは少なくとも連邦議会の考えた目的の一部は達成していることになる。

ただ、筆者ら自身もこの検討結果に幾つかの欠陥があることは認めている。例えば、PSLRA施行によりmeritのある訴訟が提起されなくなることは否定できないが、その潜在的コストはこのモデルにおいては計測不可能であり、更なる検討が必要であるとしている。

まあ、要するに筆者らは、PSLRA施行により証券詐欺訴訟の主張の正確性が高まったという事実を指摘しており、逆に失ったものは計測不能であるとして、PSLRAそのものには賛否までは表明していない。ペーパーの分析手法からして正しい謙抑的な態度であるように思われる。

以上、ペーパーの中身をまとめてみた。むろん、このペーパーは各変数と訴訟活動との相関関係をまとめたものにすぎず、因果関係などはもっと複雑怪奇で単純なものではないのだが、政策評価のための重要な資料となる。データとあわせて読むと非常にわかりやすいペーパーであり、読まれた方にわかりにくい部分があるとすれば紹介している私の責任にすぎないので、興味があれば是非原文にあたっていただきたい。
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by neon98 | 2006-05-26 05:08 | LEGAL(General)
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