私の子供たちが観るアニメはなぜ全て日本製なのか?
Mehra, Salil, "Copyright and Comics in Japan: Does Law Explain Why All the Cartoons My Kid Watches are Japanese Imports?" . Rutgers Law Review, Forthcoming Available at SSRN

まずはお断りから。筆者は、This is a work-in-progress; please do not cite or redisseminate without permission. と記載してあるが、無断引用禁止というのは著作権法32条に違反する記載として効力は否定される(例えば、服部弁護士の見解)し、米国著作権法においてもFair Useにとどまると考えられるので、「未完成品なので改変の可能性があり、論文や訴訟等における権威として利用すべきではないという注意書き」として理解することにする。何よりもご自身がWEB上で不特定多数に公開しているペーパーであるわけだし、出典を明示しない方が問題があるだろう。考え方を変えた場合にはエントリそのものを削除するほかない。

キャッチーなタイトルに惹かれ、どうでもいいと思われる論文を思わずメモをとりながら真剣に読んでしまう。業務に必要不可欠などんな論文を読むときよりも真剣度が高い(笑)。
外国人が日本を訪れた際に興味をおぼえるのがラブホテルであり、パチンコであり、電車の中で漫画を読んでいるサラリーマンの姿であるという。そのことからすると、ラブホテルを題材にした論文があるのも不思議ではないが、漫画を題材にした論文があるのも不思議ではない。

この論文の論旨は、日本の主流漫画と同人誌のマーケットが共存していることを題材にして、著作権の保護を強化すれば著作者に創作のインセンティブが与えられ、より良い製品や革新がうまれるという考えに疑問を投げかけるというものである。

1. 同人誌の著作権侵害性

ここでの同人誌とは、他の有名な著者による著名キャラクターを使って描いた漫画である(私などには「同好の士が資金を出し合って作成した雑誌」(Wikipedia)という定義付けの方が正確に思え、同人誌全てをこのように定義付けすることには疑問があるのだが、筆者が同人誌のうち著名キャラクターを使った描いた漫画のみを「同人誌」と呼称しているものと考えることにする。)。まず、筆者は、日米の幾つかの判例をひいて、日米いずれの著作権法においても、著作権の対象となるキャラクターを利用した同人誌が著作権侵害になり、著作権者は同人誌の著者およびそれを流通においた者を相手に著作権を行使することができると説明している。ちなみに、パロディであるとの主張に関しては、フェアユースという概括的例外条項が存在しない日本法においては、パロディであるとしても私的利用あるいは引用などといった個別例外条項を探さねばならず、即売会などで販売される同人誌を私的利用ということはできないし、多くの同人誌がオリジナルの引用・批判をしているものではない(同様の理由でアメリカ法においてもパロディにはならない。)という理由で、著作権侵害にはならないという主張を否定している。

また、同人誌がそして、営利目的のものではないという主張に対しては、同人誌は、ほとんど毎週開催される即売会(最大手の即売会での売上げは一日あたり15M米ドルを超えるらしい)のほか、上場企業である株式会社まんだらけのようなチェーン展開の本屋やインターネットにおいても販売されており、必ずしも無視できる規模の著作権侵害であるとは限らないとする。

2. 日本に著作権法が存在するのになぜ同人誌とそのマーケットが存在するのか

この説明としては、訴訟嫌いという文化的価値が漫画家たちに権利行使をすることを妨げているという説明や、訴訟提起によるレピュテーションリスクに基づく顧客層の喪失を避けるために権利行使しないという説明がありうる。

また、個々の権利者が権利の不行使によって利益を享受することはなくとも、産業全体として利益を享受するという説明もありうる。ただ、この説明ではなぜ個々の権利者がなぜ権利行使しないのかを説明できない。そこで、筆者は、著作権者が権利行使しない根拠を、日本の法制度のもとでは訴訟をするインセンティブが存在しないという説明(弁護士へのアクセス、訴訟遅延、認められる損害の少なさなど)に求める。例えば、日経新聞がその記事の著作権侵害に関して東京とNYそれぞれの裁判所に訴訟提起したところ、東京では11の記事の侵害に対して約800米ドル(+訴訟費用)、NYでは420,000米ドル(弁護士報酬含む)が認められたということである。

3. フェア・ユース概念への示唆

ここでの論旨は日本の著作権Enforcementシステムを批判することにはなく、同人誌マーケットと主流漫画マーケットが相互依存し、助け合うことにより、日本の漫画市場にはよく作品が生まれているという主張である。

筆者は、米国のショーや映画が日本市場に受け入れられており、英語を読める日本人が多数存在するにもかかわらず、米国の漫画は日本に存在せず、日本の漫画は多数米国に輸入されている理由を同人誌マーケットと主流漫画マーケットの相互依存に求める。同人誌マーケットと主流漫画マーケットの相互依存のメカニズムは明確ではないものの、筆者によれば(1)新しい才能のある漫画家の原資となる、(2)新しい漫画スタイルの機会となるなど産業全体への利益があり、その利益が個々の権利者への損失を上回っているとしている。

結論として、筆者は同人誌マーケットの実態は商業目的のものを含むとしたうえで、そのようなものもフェア・ユース概念に取り込んで考えたとしても、創作と革新を促すという著作権法の目的に沿うのではないかと、フェア・ユースをより広くとらえていくことを提案している。

感想めいたことを言ってしまうと、日本の漫画・アニメが隆盛であることを日本の著作権Enforcementシステムに求めてしまう説明はいささかこじつけという気がしないでもない。アメリカ人の描く絵の下手さかげんを見てしまうと、むしろ私は筆者の否定する日本の漫画文化の定着度合いに根拠を求めた方が素直な気がするのだが。なぜアメリカの漫画は日本に受け入れられないかというと、多くの面白い漫画が日本に存在するのに、面白くないアメリカの漫画を受け入れる理由がないからであり、フェア・ユース概念を広くとらえたところでアメリカの漫画が日本に入ってこないであろうことは私には容易に予測できる(笑)。
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by neon98 | 2006-05-27 04:49 | LEGAL(General)
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