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日本の法化社会とリーガルエリート市場(上)
「法化社会」という用語はそれ自体では意味不明なのであまり好きではないのだが、ググッてみてもわりとよく利用されているのでこの語をあてることにした。今日の話は、行政による裁量的な支配から法による支配が優位に立つこととなり、リーガルエリートたちの市場がどうなったのかという話である。今日とりあげるのは、Curtis J. Milhaupt and Mark D. West, Law’s Dominion and the Market for Legal Elites in Japan (June 14, 2002)という日本法についての論文では毎度おなじみのお2人による論文である。

米国において従来から存在する議論として、弁護士とはTransaction Costを生むだけの存在であり、経済にとってその存在は望ましくないというものがある。なんとも牧歌的な議論であるが、1985年に13,000人以下であった日本の弁護士数と当時の日本経済発展とが「弁護士=害悪」という論争の一証拠(“EXHIBIT A”)としてあげられていたそうである。弁護士過多を害悪とみなす考え方は法の存在そのものを敵視することが多く、法化社会における事後規制のあり方よりも行政を中心として事前規制型の方が優れているのではないかという主張につながることも多かった(注:これらの主張の解説はP6からはじまり、弁護士が経済発展のお荷物であると論じる主張を丁寧に説明しているので、興味のある方はご覧いただきたい。)現在では日本経済がバブル崩壊以降低迷しつづけたこともあり、そのような見方は後退している。

著者らは、規制緩和、行政裁量の限定、リーガルサービスへの需要拡大を受け、法と弁護士らの経済成長への影響と日本経済のガバナンスに対する官僚の役割という2点にあらためて焦点をあてる。その中核となる主張は、
透明かつ法に基づいたガバナンス機構への移行を反映した法機関と政治経済の変化を主要な原因としてリーガルエリートたちの雇用パターンが変化している
というものである。事前規制型から事後規制型への移行とそれに伴ってエリート官僚を目指すエリート法学生が減少し、エリート弁護士を目指すようになったという主張を検証しようという論文である。東大法学部卒業生に限定した話ではもちろんないが、もともと官僚層を目指す学生が多いという点では東大法学部卒業生を対象として想定してもらうのが一番わかりやすい。

1. 受験者数・合格者数・就業者数からの分析

著者らはまずエリート法学生の選択は官僚か法律専門職の二者択一であると単純化したうえで、国家一種試験と司法試験の受験者数・合格者数・就業者数のデータから就業構造の変化を調査し、エリート法学生が官僚よりも法律専門職へと向かっているという仮説を検証する。
・司法試験受験者数はバブル経済の影響を受けて減少した80年代を除き、概ね継続的に増加傾向にある。司法試験合格者数は80年代までの間はほぼ一定に据え置かれ、90年代に入ってから増加傾向にある。
・国家一種試験受験者数は景気動向を受けて増減するものの長期的なトレンドは見えない。仮に長期的なトレンドとして減少傾向にあるとした場合であってもその原因は合格率の低下ではない。国家一種試験合格者数は1998年に減少するもののそれ以降の数年は増加傾向にある。
・1999年までのデータをみてみると国家一種試験合格者数とエリート官庁就業者数も減少傾向にあり、長期的に就業者/合格者の割合が低下している。この割合の低下が国家一種試験離れの原因となっているとも考えうるが、現行の受験者の一部のヒアリングによると彼らはそのような意識を有していない。
・官僚機構自体が人材離れを受け止め、弁護士法の改正による弁護士の官庁への出向、国家公務員試験の合格者倍増、法科大学院卒業者への国会公務員試験合格者資格の付与など、優秀な法学生を惹きつける対策をしている。
2. 大学別データの分析

著者らはこれらのデータのみでは必ずしも法学生の職業選択傾向は明らかではないとして、両試験において受験者・合格者の比率が極めて高い一部大学のデータを抽出する。
・東大における司法試験合格者・司法研修所入所者の推移は全国的な傾向と合致して増加傾向にあるのに対して、国家一種試験合格者・官庁就業者数は全国的な傾向にもまして減少傾向にある。すなわち、東大生の官庁離れが著しく進んでいる。
・東大生の官庁離れが特定の大学卒業者に対する採用基準(東大生ばかりを採用するという批判に対する反作用)を反映しているかどうかを確認したところ、99年からの3年間にかけて合格者数に対する東大生採用数の割合は増加しており、採用側の東大生に対する逆選好は生じていない。
・同じくエリート大学である京大においてもほぼ同様の傾向がみられる。
3. その他関連データ
・いわゆるダブル合格者は従来官庁に入り、よほどのことがない限り退職することはなかった(注:司法研修所⇒官庁というルートは官庁側の採用基準に合致しないので選択されにくい。)が、最近では官庁を退職して弁護士事務所に勤務する例が増えている
・司法書士・法務部所属従業員数が増加している。
(次回へ続く)
by neon98 | 2006-06-22 07:55 | Law School
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