2005年 10月 14日 ( 1 )

阪神タイガース上場の可否
しばらく本業が多忙で何も考える余裕がなかった。ここで、遅ればせながらのエントリ。

報道によると、巨人の渡部会長が球団上場は野球協約上ありえないと発言したということ。もともと疑り深い性格なので、根拠を欠きがちなこの人の発言内容を検証してみようと思う。ここで検証するのは、現行の野球協約上、球団の上場が可能かどうかであって、上場の是非はさしあたりおいておく(上場した方が望ましいと言っているわけではないので、念のため。)。
巨人の渡辺恒雄球団会長(79)は5日、村上ファンドが阪神電鉄に阪神タイガースの株式上場を提案したことに関して「上場なんてとんでもない。野球協約上、許されない。村上阪神などありえない」と批判した。野球協約が参加資格に定める「資本金1億円以上の株式会社」「日本に国籍を有しないものの株式総数が49%を超えてはならない」などの要件を挙げた上で「村上ファンドはどこの国籍で、どこからカネが集められているのか」と疑問視した(日刊スポーツより引用)。
少し考えてもらえれば誰でもわかると思うが、彼の発言は球団自体の組織形態とその株主構成という2つの次元を混同している。既存の阪神球団を上場させようというのだから、資本金1億円以上の株式会社という要件を充足することは明らかだし、本件では村上ファンドが球団を保有することを提案しているわけではないのだがら村上ファンドの「国籍」を問題にするのは筋がちがう。具体的に、日本プロフェッショナル野球協約2005(日本プロ野球選手会公式ホームページからPDFファイルで入手可能)をみてみよう。
第3条(協約の目的)
この協約の目的は次の通りである。この組織を構成する団体および個人は不断の努力を通じてこの目的達成を目指すものとする。
(1) わが国の野球を不朽の国技にし、野球が社会の文化的公共財となるよう努めることによって、野球の権威および技術にたいする国民の信頼を確保する。(以下、略)
当然ながらこの条項自体は球団上場の直接の支障になることはない。球団の保有形態と野球が「社会の文化的公共財」であるかどうかは論理的に関係がない。直接的に関係があるのは第6章の参加資格である。
第27条(発行済み資本の総額)
この組織に参加する球団は、発行済み資本総額1億円以上の、日本国国法による株式会社でなければならない。(以下、略)
阪神球団自体はこの要件を充足する日本国国法による株式会社であるから、これも問題がない。
第28条(株主構成の届出と日本人以外の持株)
この組織に所属する球団は、毎年4月1日までに、その年の2月1日現在の自球団の発行済み株式数、および株主すべての名称、住所、所有株式の割合をコミッショナーに届け出なければならない。株主に変更があった場合は、その都度届け出るものとする。ただし球団役職員が自球団の株主の場合は所有割合にかかわらず届け出るものとする。
この協約により要求される発行済み資本の総額の内、日本に国籍を有しないもののの持株総計は資本総額の49パーセントを超えてはならない。
村上ファンドは、球団の持株会社の上場を提案(Asahi.com)しており、この方式だと少なくとも前段の規定に違反することはない。現行でも阪神球団の親会社である阪神電鉄は株式上場してことからも明らかであり、球団の親会社の株式の保有形態について報告をすることは要求されていないから規定に違反することなく、持株会社を上場させることは可能である。ただ、当該持株会社が外国資本の企業等に買収されてしまった際には、後段の「日本に国籍を有しないもの」の解釈が問題となってくる(後述)。
敢えて指摘するまでもないけれど、後段の規定が「資本総額の49パーセント」としているのは誤り。「議決権の49パーセント」とか「持株総数の49パーセント」とあるべきだろう(なぜ49パーセントかはともかくとして)。もし、弁護士が起案したとすれば、弁護過誤である。

新たな参加資格の資格または譲渡、球団保有者の変更と同様に実行委員会およびオーナー会議の承認が求められている場合として、第31条第(1)号ないし第(4)号が定められている。球団上場にあたって一番問題となりうるのは以下の条項である。
(1)売買、贈与、営業譲渡、合併等その他の方式を問わず、球団が有する参加資格を他に譲渡しようとするとき。
(2)球団の株主または新たに球団の株主となろうとする者が、逐次的に取得する場合および間接的に取得する場合を含め、球団の発行済み株式総数の49パーセントを超えて株式を所有しようとするとき。
(3)球団の発行済み株式総数に対する所有比率に関わらず、球団の筆頭株主を変更しようとするとき。
(4)その他、球団呼称の変更の有無および株式所有名義の如何を問わず、その球団の実際上の保有者を変更しようとするとき。
第2号は「間接的に取得する場合」も含んでいるので持株会社の株式を買収することにより球団を取得する場合も含まれる。ただ、持株会社の株式のうちどれだけを取得すれば間接的に49パーセントを超えて取得したといえるのかは規約上は明らかではない。第4号は包括的に「球団の実際上の保有者を変更」としている。この意味も明確ではない(現在でも阪神球団の実質的あるいは間接的な保有者は村上ファンドだといえなくはない。)。

ご覧いただければわかるように協約は完成度の高いものとはいえないので、それぞれ難点はあるもののいくつかスキームは考えうる。弁護士の腕のみせどころというものだ。ひとつ言えるのは阪神電鉄が「保有者」として継続しつつ、株式上場することは可能だということだ。例えば、種類株式を活用し、上場審査基準の緩いヘラクレスに上場するというのは十分実現性のあるプランである。上場の局面では新たに株主になろうとする者が49%を取得するわけではないから第2号は問題がなく、第3号との関係では阪神電鉄が筆頭株主にとどまりさえすれば問題がない。解釈の争いが生じ、交渉の余地があるのは「実際上の保有者を変更」しないというのがどの範囲のことをいうのかという点である。

ただ、村上ファンド側で可能だと言い張っても阪神電鉄、選手会、他球団、ファンの理解も得られるのでなければ、球団上場は難しいだろう。ファンがあってのスポーツという性質上、訴訟で解決というハードランディングは選択肢になりえないだろう。村上氏の経営理念にあるように、多くの人が「おもろい」と思えるプランであれば受け入れられる余地があるのかもしれない。
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by neon98 | 2005-10-14 06:45 | Securities

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