2005年 12月 17日 ( 4 )

あるlawyerの悩み
Blogには主に会社法・証券取引法の話題をとりあげているが、この分野での自分の専門性はまだまだ高くないと思っている。米国を含めて各国と比較して、日本の弁護士が今まで個人事務所という形態を多くとってきて、さほど専門性というものを意識してこなかったのも事実であり、これからの時代は専門性が高くないと食べていけないという言い方がされるのも事実である。でも、ある法分野での専門性を高めるだけでいいのかと聞かれるとそうじゃないだろうと思っている。

こちらの法律事務所で研修をしていて、あらゆる業務をシステムとして機能させようという意図を感じる。Lawyer全体でのマーケットの違いを反映してか、法律産業向けのソフトウェアなどがたくさん開発され、Discovery向け、Due Diligence向けの文書管理ソフト、法律文書作成支援ソフト、数々の法律関係データベースが整備されている。個人の専門領域もある程度しっかり意識されていて、不動産のみを扱う弁護士、Private Equityのみを扱う弁護士、証券取引法のFilingのみを扱う弁護士、独占禁止法のHSRFilingのみを扱う弁護士、保険の訴訟のみを扱う弁護士を扱う弁護士と様々であり、当該分野での知識はすごい。

日本でも例えば外債発行を行う業務は全弁護士の98%は「はい?」という反応しかできないであろうし、何か核になる分野での顧客開拓・維持が必要なのはそのとおりだろう。個人事務所で営業をされている弁護士でも顧客との間でよく経験を積まれている業務があって、得意分野なるものは存在している。判例のデータベースなどは裁判所も協力して全裁判例をデータに取り込んで利用できるリソースを開発すべきだろうし、法律文献も雑誌社ごとにDVDなどのデータベースに落とすのではなく、WestやLexisのように業界横断的なデータベースが欲しいところだ。組織化・専門化という流れはこれからの加速していくだろうということは前提として、果たしてそれだけでいいのかということはよく考える。

d0042715_2272665.jpg僕自身はなるべく特定の分野だけに限定せずに知識を習得しようと努めてきた。意識してきたのは、お客さんから相談されたときに「これは危ないな」と最低限気づくことができる能力であって、これは分野横断的な経験がないとなかなか対応できない。何も知らない分野に取り組むことは組織体としてはまさしく非効率にほかならないのだろうけど、問題点発見能力が必要とされる場面をクリアできる能力というのをまず意識しないと本当にお客さんに迷惑をかけてしまうことになりかねないので、まずは最低ラインとしてのGeneralist的能力は必要だと思っている。

顧客が仕事を依頼するとき、○×法律事務所に依頼するというのか、Aさんに依頼するというのか、色々と考え方があるのだろうけど、基本的には個人としてのつながりが先にたち、それに組織としてのバックグラウンドを追加して考慮するという思考なのだと思う。担当の弁護士が案件を通じて、もっともよく当該顧客の業務、システム、人的関係、会社文化を理解していて、相性があうから継続されているのであり、顧客側としても基本的には手持ちの弁護士リストの中からどこに依頼するかを決定する。依頼者自身の業務自体が専門的な特定分野に限定されている場合もあるだろうし、案件ごとに弁護士を変える場合も多いだろうけど、会社の法律案件を全部持ってこられるお客さんも少なくない。本当に対応不可能な事案というものはさすがに倫理上お断りすることになるのだが、基本的には相談を聞き、Conflictがない限りは受け、自分でまたは他の弁護士との共同により対応するわけで、事案の整理・論点発見・対応方針の決定の際には特定の法分野のみの知識では極めて不十分である。また、「専門」なんてものは顧客が決めるのだという意見にも一理あって、ある顧客はある弁護士のことをM&A専門だと思えば、他の顧客はPL法専門だと思ったりする。結局は相性の問題なのだろう。

個人の幸福追求という観点からしても単純作業のみをしていたいという人はあまりいないだろうし、ローファームという組織面からしても新人アソシエイトをマシーンのごとく単純作業に酷使するというのは求人活動に支障を及ぼすと思われる(実際には多かれ少なかれマシーンになる場合は存在しているだろうが・・・)。米国の弁護士が専門については詳しいけれど、少し専門を外れるとすぐわからないと平気でいうという面もあるわけで、すごく基本的な質問に対しても対応できないのには驚く。狭い対応能力は必然的に組織的バックアップを要求するが、顧客サイドとしても案件にずらずらと10人以上も弁護士を並べられてもコストとして割りあわない(僕が依頼者の案件を海外法律事務所に相談したときに同じことをされ、何人かの弁護士にはお帰り願ったことがある。)。

リーガルマーケットの大きさはリーガルリスクの大きさや法律分野の複雑さ・予見困難さと比例していくだろうから、日本のリーガルマーケットが米国と同様の規模になることはありえないと思っている。米国の場合、判例法主義や連邦・州法の二段構造のため、法を発見することが困難であるのに対し、日本の場合はその場で調査をしても対応が可能である場合が多い。かけられるコストの問題、対応可能性の問題からして、一つの狭い法分野のみに固執していくのは不適切であり、危険でもあると思う。

法律のみを知るというだけではもちろん足らず、会計・税務・顧客業界の慣行なども知らないといけないわけで、私自身は仕事を通じて法律以外のことをたくさん学んでいくことが非常に楽しいし、よいサービスを提供するために必要だと思っている。個人的には、M&Aについての専門性を高めていく(専門といえるほど狭い法分野とはいえないのだが・・・)ために論文を読んだりすることはもちろん好きなのだが、案件を通じてお客さんの業界のことをたくさん教えてもらったり、取引の実態に合致した契約書を作成するために業界のことや在庫変動の時期とか色々と細かく詰めてことの方が実は楽しい。基本的な実務家としての私の欲求は何かの法分野を深く追求するというよりも、ある事件をお客さんが喜ぶようなかたちに工夫を凝らしていき、喜んでもらうことであって、実は分野などどうでもいいのだと思うことも多い。

これだけ法律がどんどん変わり、色んな種類の仕事が世の中に登場すると全部やろうとするのはもう無理だということは認識しながらも、色んなことを知りたいし、やってみたいという欲求とどう両立させるのかが個人的には非常に悩ましい。

依頼されたことをきちんとして依頼者の信頼に応え、かつ、一定の興味のある分野は追いかけていき、飽きたらまた違うことを勉強し、助けてくれる人脈も大切にし、専門外のことにもアンテナを張り続けるという努力(不可能ですかね?)をしていくと、何かの偶然や顧客の勘違いでいつかは何かの分野の第一人者とは言わないまでもお客さんに「○×に強い」と評価してもらえるようになるのだろうか?などと思うことがある。

まあ深刻に悩んでいるわけではなく、最終的には考えてもしょうがないわなーと思うわけだ。人生など計画的に生きようとするのが間違いであって、その都度楽しいと思うことを頑張りましょうねという以外の答えはないのだろう。帰国したら何しようかなあ。
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by neon98 | 2005-12-17 22:07 | よしなしごと

消費者団体訴訟制度のパブリックコメント
今日はもう一つエントリ。消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子
(「消費者団体訴訟制度」の導入について)に対する御意見募集
ということで、内閣府からパブリックコメントのお知らせ。大規模の消費者を対象とした消費者被害が多発していることを受け、適格消費者団体による訴訟提起制度を制定し、消費者保護法規の実効性を高めようとする試みである。大きな論点としては、(1)適格消費者団体の範囲、(2)団体に差止請求権のみを認めるのか、損害賠償も認めるのか、(3)消費者保護法規として消費者契約法違反にとどめるのか、それ以外の消費者保護法規も含めるのか、(4)重複訴訟などをどう防止していくのかなどである。

国民生活審議会の報告書(PDF)日本経団連の立場日弁連の立場(PDF)を比較してもらえれば論点がわかるようになっている。

恥ずかしいがこれまでの議論の過程をよく知らないので詳細なコメントは控える。一つだけコメントするとすれば、適切なインセンティブが与えられない制度はうまく機能しないということ。善意や奉仕、超人的な努力といった類のものに支えられているものがたくさんあることは自覚しているけれども、制度全体としてみたときにこういったものは特殊なものであり、個人を抽象化した制度論としてはうまくいかない。

差止め制度については既に被害を受けた個人が適切なインセンティブを有しないことから個人以外の誰かが行うことは適切なのだろうが、消費者団体というかたちが適切なのだろうか。政府は市場原理という理由により政府ではなく、第三者機関が責任を有するものとしているが、どういう市場原理を想定しているのだろうか。運営者、財源等により団体に与えられるインセンティブが異なってくるけれど、差止めのみを行う団体が持つインセンティブとして何があるのか、聞いてみたい。

損害賠償請求権を当事者とは別個の団体に強制的に付与となると制度設計としてはゆきすぎで、最低限被害者の意思選択が認められたうえで、誰がどのように訴訟遂行していくのかという問題になる。この団体に損害賠償請求を認めないことは一つの合理的な考えではあると思うが、零細な被害者が実効的に訴訟提起できる制度は整備されてもいいんじゃないだろうか。

一歩前進とも評価できるけど、政府の役割放棄?ともとれますが…。市場万能主義と言われるアメリカの連邦政府の方が消費者保護の動きは活発そうにみえます。
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by neon98 | 2005-12-17 06:17 | LEGAL(General)

強制的公開買付制度の導入?ー追記有
強制的公開買付制度についての金融審議会報告書案(Nikkei Net)について報道がなされている。
金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会は16日、TOB(株式公開買い付け)制度の見直しについて報告書案をまとめ、大詰めの議論に着手した。保有割合が3分の2を超える買い付けでは残りの株式もすべて買い取らせるルールを設けることなどで合意。ただファンドによる株式の大量保有を迅速に開示させるルールでは異論も多く結論が出なかった。
1. 3分の2でいいのか?

英・独は強制的公開買付制度を導入しているものの、そのトリガーは議決権の30%です(但し、多少の例外有)。3分の2というのがどこから出てきたのか、おそらくは特別多数決を意識したものであると思うのですが、少数株主保護という場合に3分の2でいいのでしょうか。敵対的買収防衛策についての是非の問題とも関係するところですが、数字の意味するところは何でしょうか。

2. 敵対的買収防衛策は存続するのか?

強制的公開買付制度の不存在が防衛策導入の大きな理由の一つなわけで、少数株主を守るという建前が一つ消えてしまうと英国のように中立義務を課すという方向になるのか。せっかく先駆者が考案され、議論が蓄積されつつある中でそれはあんまりだと思う(私の意見はともかくとして)ので、これはないでしょう^^。3分の2という数値が少数株主保護としては中途半端な感じがするので、防衛策延命のいい理由になるんじゃないかと勘ぐってみたりして^^。

私自身は強制的公開買付制度の是非はもう少し経済的効果を踏まえたような論文を探してみてから考えようと思ってますので、とりあえず意見はありません。ただ、強制的公開買付制度と防衛策との両方はどうなのかと直観的には思っているところです。個人的には防衛策を活かすのであれば、公開買付の期間を延長する方法を設け、撤退しやすくもし、敵対的買収の際に両者が時間をかけて話しあえるような枠組みを整備するという方向も少し考えてほしいところです。

(追記)47thさん経由で知った読売ニュース記事によると、ここらあたりの攻防のバランスをとった仕組みが採用されるとのこと。
敵対的M&A(企業の合併・買収)時代の到来に合わせて、買収者がTOBの撤回や価格引き下げをできるようにする一方、TOBを仕掛けられた企業にもTOB期間を延長したり、買収者に質問する権利を認めるなど、攻守双方のバランスを取っている。
具体的中身によるが、これは賛成。(追記終)

とりあえず備忘用なので、中途半端ですが今日はこれまで。間違いのご指摘・ご意見など歓迎です。
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by neon98 | 2005-12-17 04:31 | M&A

謝罪をされてもチャンスは二度とない
耐震強度偽装問題に関する14日の証人喚問を衆議院TVのWEBサイトで一応さらっと聞いてみた。とはいえ、自民党の渡辺議員の最初の10分でもういいやという気分になり、途中でやめた。自民の武部幹事長が謝罪(Asahi.com)しておられるけれど、覆水盆に帰らずである。40分の持ち時間で33分、自分が話すというのは尋問技術として論外であり、コメントの余地がない。

政治家である以上パフォーマンスの必要性までは否定はしないが、重要な事項を聞き出せないでいてら何のパフォーマンスにもならない。国会の証人喚問が法廷での証人尋問と全く同一であるとは言わないけれど、国政調査権を与えられた国会として行う調査の手段なわけで、意見を押し付け、国民に頑張っていると見せかける場面ではない。きちんとした質問をし、ほんの少しだけパフォーマンス的要素を混ぜれば自然に国民に頑張っているように見えるわけで、今回の質問者は国民にパフォーマンスすらできていない点が問題なのである。

Toshiさんのエントリで、パフォーマンスを批判されており、それ自体はもっともなご意見なのだが、私の印象としては素人目に見てもパフォーマンスにすらなっていないような質問であることが問題なような気がする。90%の事実調査と10%のパフォーマンスという割合なら、政治家の質問としてはいいんじゃないだろうか。いずれにせよ、本当に聞くに堪えないという意味では100%同意する。

具体的にいうと、(1)国政調査の場面で証人の反省を問うことは意味がない(刑事事件の弁護人からの質問ではない)、(2)質問者の意見を聞いてもしょうがない、(3)事実を聞いていない質問が多すぎる、(4)意味のない質問の前段(「ただいまの・・・発言は重大な発言だと思うのですが・・・・」)が多すぎて何が聞きたいのかわからない、などなど聞くに堪えない点は幾らでも列挙できる。聞いていると睡魔がおそってくる。

皮肉でも何でもなく、悪い尋問技術の実践としてロースクールや司法研修所でとりあげたらどうだろうか。まずは何が気になったかを考えさせ、自分ならどう聞くか尋問事項を考えさせる。いい実践教育になるに違いない。こんな感じの講評がかえってくるんだろう。
事実について聞きたいのか、事実に対する評価を聞きたいのか、区別せよ。
事実に対する評価を当該証人から聞くことに意味があるのか、考えよ。
質問の前提を明らかにするために多少の導入を入れることは許されるが、導入部分が単なる自分の意見の押し付けになっていないか、考えよ。
証人喚問の場面で相手を責めることに何の意味もない、刑事事件で反省の弁を引き出す場面とは違うということを自覚せよ。
時間は無限にあるわけではないことを自覚し、事実を中心とした質問の流れを組みたてよ。
何よりも尋問に割り当てられた時間の少なくとも5倍以上の時間をかけて準備せよ。
今度、裁判所で言ってみましょうか。前回の証人尋問少しミスったのでもう一度チャンスをくださいって。
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by neon98 | 2005-12-17 03:25 | よしなしごと

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