2006年 01月 19日 ( 1 )

ライブドア問題-風説の流布・偽計ですか?-
風邪に伴う発熱で体もだるいし、既に著名な方々が色々と書かれているところだし、マスコミ情報はよくわかんないし、無視を決めこもうと思っていたのですが、問題の重要性に鑑みてやはり書いておくことにします。

日本のマスコミ(海外の傾向は知りませんが、敢えてこういう言い方をします。)は何か問題視されると一つの傾向でしか書かず、「袋叩き状態」にしてしまう傾向がおおいにあると思っていて、書かれる側に対する悪意を感じるというレベルの問題だけではなく、社会に対して偏見を撒き散らすというレベルの問題でおおいに問題であると思うところです。例えば、毎日ニュースは、
ライブドア関係者は特捜部の任意聴取に対し「マネーライフを事業に活用する計画はなく、資金調達の手段だった」という趣旨の説明をしているという。
という書き方をしているのですが、買収により株式総額を高めて資金調達をすることだって別におかしな話ではないわけで、それを偽計スキームの動機ととらえるが如く引用するのはフェアではありません。社会的制裁を与える道具としてではなく、事実を伝えるためにツールを使っていただきたいものです。

とはいえ、私を含め、多くの方々にはマスコミ報道を通じてしか事実を知る手段はありませんので、報道されている中での被疑事実らしきものを拾うことにします。ざっとWEB上でのニュースを見る限り、被疑事実は(1)マネーライフ社「買収」に伴う風説の流布・偽計、(2)ロイヤル信販・キューズ・ネット「買収」に伴う風説の流布・偽計、(3)ライブドア本体およびバリュークリックジャパンの粉飾決算とに区分されるように思います。(3)のうちライブドア本体の粉飾決算容疑については47thさんがライブドア本体(単体)粉飾疑惑の気になるところというエントリをされていて、具体的な手口が判明しない以上あまり付け加えることもないわけですが、(1)および(2)の問題はたくさんの問題点を備えているように思います。(1)と(2)は当事者こそ違いますが、同じ手法ですので、上記リンクの毎日ニュースで説明されている方法を引用します。
関係者によると、ライブドアが実質支配する「VLMA2号投資事業組合」は04年6月、マネーライフの全株式を取得して買収。同年10月25日、ライブドアの関連会社「ライブドアマーケティング」(LDM、当時バリュークリックジャパン)が、既に実質ライブドアの傘下だったマネーライフを「子会社化する」と虚偽の発表をした。これに伴い、同組合はLDMとの間で、マネーライフ株とLDM株を1対1で交換する契約を締結。LDM側は株式交換に向け、1600株を発行した。(中略)LDMは04年11月、自社株を100分割すると発表して株価は高騰。同組合が株式交換で得たLDM株の総額は、当初の約2億8000万円が一時44億円余まで膨れ上がった。05年2月になって、同組合は8億円余でLDM株を海外ファンドに売却。その後、スイスの銀行や別のファンドなど複雑な経路をたどり、売買手数料などが差し引かれた約6億6000万円がライブドア本体に還流したという。
要するに既に実質支配下にあるファンドから子会社であるLDMに株式保有者が移転しただけなのに当該事実を隠したまま、「子会社化」するという公表をしたことが「風説の流布」ないし「偽計」に該当するということのようです。特捜部の意図としては、(1)ファンドによる買収、(2)ファンド・LDMとの間の株式交換、(3)LDMの株式分割、(4)ファンドによるLDM株式の売却、(5)ライブドアへの売却資金の還流という「錬金術」を問題視し、それを目的犯(目的犯についての説明は、toshiさんのライブドア捜査と罪刑法定主義というエントリをご覧ください。)としての立証につなげようという意図なのだろうと推察するところです。

戸惑いを感じるのは、(具体的手法を確認しないと一概にはいえないのですが)粉飾決算の嫌疑はさておき、個々の取引や開示自体をとらえたときに違法性を感じない、実は巷に結構ある取引なのではないか?という点です。投資ファンドは一般にオフバランスでかつ税務効率のよい媒体を利用され、特に法形式上独立性・中立性という部分が確保されることを意識します。その限りでプレスリリースなどでは当然のように別個の媒体として記載しますし、株式交換時の法定開示要件を充足している限り、担当弁護士であってもおそらくOKを出すのではないかと思うわけです。

その反面、業界は非常に狭い世界ですからどこかで役員の兼任があったり、投資ファンドの背後にいる投資家側としても監視はしないといけないわけですから、人的な面において「実質支配」とまではいえなくとも本当に独立しているの?と言われるとグレーな場合もありうると思います。実質支配という場合に、資金の供給割合でみるのか、人的側面でみるのか、投資委員会の構成でみるのか、例えば人的側面という場合に雇用関係で見るのか、金銭の授受の有無で見るのか、長年の友人関係や親族関係でみるのか、その判断は実に複雑なものとなるはずです。逆にいうと背後にいる投資家と何ら関係がない人間が投資ファンドに派遣されたり、投資家が投資ファンドに対して何らの決裁権を有しないスキームというのはさほど多くないわけで、これらを全部実質支配というのか、このあたりの問題がでてまいります。

もう一つ気になるポイントは、何をもって「風説の流布」「偽計」というのかという点です。本件では開示自体に虚偽情報は存在しないはずで、ある開示をする際に付随的に必要とされる開示がなされなかったこと(不開示)をもって「風説の流布」「偽計」ととらえているようです。理屈の上では開示と不開示が同時になされていはいるのですが、違法行為を構成しうるのは不開示にほかならないわけで、立件のためには不開示がまず構成要件に該当するという判断がなされる必要があります。注釈も何もありませんので調べられませんが、「風説の流布」は積極的作為を前提とした文言であり、この中に不作為を読み込むのは日本語としておかしいでしょう。「偽計」という用語が過去にどのように裁判例で使われてきたのか検討する必要はあるのですが、Hibiya_Attorneyさんがライブドアの強制捜査(続報)の中で否定的な意見を述べられていて直観的には私も同意見です。

47thさんが、なんで「風説の流布」なんだろう?というエントリの中で、日本版10b-5として証券取引法158条が機能する可能性を示唆されています。有価証券報告書等の法定開示、インサイダー取引規制による間接開示強制、証券取引所規則による開示強制に加え、Material Omission一般が罰せられる可能性があるということなんでしょうか?バスケット条項が従来からインサイダー取引規制に存在するとはいえ、これはあくまでも取引の規制ですから直接の開示要求と同じ効果は有しないはずで、当局はこれに加えて刑事罰もありうる風説の流布・偽計の中に開示義務を読み込んでいくのでしょうか?そして、どうして証券取引法157条ではないんでしょうか?157条は、「不正の手段、計画または技巧」(一号)、「誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示」の欠如(二号)を罰則とともに定めており、少なくとも第一号については過去に適用事例があるようです。

粉飾決算疑惑については意見を留保せざるを得ませんが、風説の流布という点に関しては従来多くの人がセーフだと思っていたところにいきなり刑事罰の可能性が示唆されたというニュアンスで事件をとらえています。
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by neon98 | 2006-01-19 08:13 | LEGAL(General)

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