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証券取引所規則の正当性?
Toshiさんが黄金株と証券取引所の役割について興味深いエントリをされておられます。研修の身で暇なはずの私ですら十分な時間がとれず、「ボストン行ってうまい飯食ってきた」みたいな適当なエントリをしてごまかしているにもかかわらず、日々業務に追われながら毎日真剣に企業法務ネタを提供してくださるToshiさんには本当に頭が下がります。参照させていただいたエントリは以下のとおりです。
黄金株と司法判断(2) 
黄金株と東証の存在意義 
黄金株と司法判断

わかりやすいように最初に立場を明らかにしておきます。このエントリは、証券取引所規則に民主的な裏づけが必要という意見に対して、ちょっと反対の意見を述べてみようというものです。但し、金融庁による規則に対する認可権限にまで反対しているわけではないので、現実的な違いはないかもしれません。権限を保有しておくこと自体はかまわないけれど、そこまで政治介入しなくてもいいんじゃないの?という意見だと受け取っていただくといいかもしれません。

1. 黄金株

黄金株についての私の立場はまだよく固まっておらず、色んなバリエーションがありうるだけに是々非々の対応でいいのではないかという一点に尽きるわけで、特に意見はありません。Googleのようなメチャイケてる企業がIPO時に投資家に対して開示をしたうえで利用することまでも禁止する必要はないような気はします。ですから、私としてはさしあたり、規則制定の場面でもやや抽象的な規則を作成しておいて審査および開示という運用面で工夫すればいいのではないかと考えています。でも、本当に書きたいことは証券取引所の規則制定権の話です。

2. 会社法と証券取引法の関係

Toshiさんの商法と証券取引法が逆転?というエントリで上村教授の意見(というかキャッチフレーズ)に感じた違和感は、そもそも規制分野が違うんだから逆転も何もないんじゃないかというものです。辰のお年ごさんがコメント欄に以下のように書いておられるとおりだと思います。
本日大臣の発言について、会社法で認められることがどうして東証の規則で原則禁止となるのか、と報道されています。全文を見るまで一定の留保をすべきですが、やはりこのような分かりやすいが誤解を招きかねない論点については、議論を尽くす必要があるのでしょう。会社法は、今般改正により、原則自由の建前に変化していますが、企業法の土台となる会社法は、未上場の会社であれ上場会社であれ適用されるものとして、かなり懐が広い(深い?)法律へと変貌することになると考えられます。上場会社のあり方についてどうこう規定することは、そもそも会社法がすることではないのです。
会社法で認められることがそのまま上場企業において認められるべきだという議論にはつながらないのは当然のことで、証券取引法が会社法にない別途の規制を加えること自体に異論がある人はいないと思います。ましてや、証券取引所規則は、法令ではありません。上場審査基準・廃止基準ともに各証券取引所毎に異なり、企業の多様なニーズに応えるものとなっています。

3. 証券取引所規則の法的性質

Toshiさんは東証の規則制定権の正当性に疑問を投げかけられます。
そもそも、この東証(東京証券取引所)は「法令に基づく自主規制機関」とされていますし、投資家保護を目的として参加者が遵守すべき規則を制定することは間違いないものと思いますので、どっかに規則制定について民主的コントロールが機能すべき「正当性」といいますか「法源」が必要だと思うのですが、この法源はどこに由来しているのでしょうか。(中略)この「正当性」を考えるにあたって、証券取引法の根拠条文を探ってみますと、内閣総理大臣(金融庁)による免許制度、会員の規律(規則)記載義務、金融庁による是正措置、規則制定、変更にかかる認可権あたりでしょうか。しかしながら、証券取引所の制定に関する組織法上の根拠条文はありませんし(だから自主規制機関となるのでしょうが)認可制である以上は自主的な規則制定権は規定されておりません。東証の制定する規則は、金融庁にお伺いをたてて、そこで認可を受けることによって「かろうじて」その正当性の根拠を保ちうるのではないでしょうか。もちろん、東証が規則を制定することが妥当とされる政策的な根拠(専門性、迅速かつ柔軟性、コストの低廉性)は十分に理解しうるところであります。しかしながら、参加者がこの規則に従わなければならない「正当性」というものが、そのような政策的な理由に基づくものであるならば、東証の規則制定は万能であって、投資家保護と言いながら、投資家によるコントロールの及ばないところで、「これが投資家にとって最善の方法である」と決められてしまうような理屈になってしまわないでしょうか。(中略)そうであるならば、民主的コントロールの及ぶ行政府の意向に(権限を委託されている)東証がコントロールを受けるべきは当然のことでありまして、東証が金融庁を協議において説得できないかぎりは、金融庁の判断に従わざるをえないとしか解釈できないと思います。
しかし、東証の規則は正確な意味での「法源」ではないはずです。会社はその株式を上場するかどうか、上場するとしたらどこに上場するのかという選択権を有しており、証券取引所はサービスを提供する一企業体にすぎず、だからこそ自主規制機関なのです。本質的には、証券取引所規則は、約款にすぎないといえると思います。

4.証券取引所の役割

証券取引所が公的役割を担っていることは争いようがないですが、本質的にはサービスを提供する一企業体にすぎません。証券取引所のサービスを幾つかの方法で分類できそうですが、例えばJonathan Macey and Hideki Kanda, THE STOCK EXCHANGE AS A FIRM: THE EMERGENCE OF CLOSE SUBSTITUTE FOR THE NEW YORK AND TOKYO STOCK EXCHANGES, 75 Cornell L. Rev. 1007は、(1)流動性(2)証券取引監視機能、(3)取引費用削減および(4)投資家への情報提供機能(レピュテーション維持機能を含む。)というように分類しています。証券取引所としては基本的には上場企業をクライアントとして収益をあげていくわけですが、適切な情報開示機能、公正なルールを確保できなければ、投資家の信頼を失い、流動性確保という最も重要な機能をクライアントに提供できなくなる関係にあります。企業側のニーズとしても、IPOを目指す企業から名だたる大企業まで様々なニーズがあるわけですから、法による画一的な規制アプローチをとるよりも、基本的には証券取引所間の自由競争を促し、当局は(免許を与えた後は)事後審査に徹するというポリシーを採用したというのが私の理解です。

日本においてはNASDAQジャパンは撤退し、東証が圧倒的な地位を占めていますので、証券取引所間の競争など適正に機能していないんじゃないのという意見もありうるところではあります。証券取引所規則を自主的に制定させ、競争させるアプローチと、証券取引所規則に民主主義による正当性をもたせるべきだというアプローチとどちらが正しいのかは、私程度では検証しかねますが、現行法の立場は前者が原則ではないでしょうか。

カネボウの上場廃止で政治的圧力がかけられたように、民主主義によるアプローチが機能するのかどうかは議論の対象になります。証券取引所は、規則を上場企業に遵守させる義務を負う(証券取引所152条1項)のに、上場廃止基準に合致した企業を政治的意図で上場廃止させない要求をしてくるなんてとんでもない話です。そもそも政治が民主主義的アプローチで規制をかけよう、かけさせまいとすれば、証券取引法で一律に規制をかけることもできるわけで、なにがなんでも証券取引所規則に民主主義的な正当性が必要とも思えません。

証券取引法149条で業務規程等の変更に内閣総理大臣(金融庁)の認可が必要とされている点で、いずれにせよ、上場基準の変更には金融庁のお墨付きが必要(行政法は詳しくないんですが、認可しない行政処分を争うのは無理筋っぽいですよね?)なので結論は同じかもしれません。少なくとも、政策的には個々の取引所の自主性を重視してもいいんじゃないのかという気がします。(注:そもそも証券取引所149条1項の「定款、業務規程又は受託契約準則」に上場審査基準および上場廃止基準は含まれるんでしょうかね?同法113条からすると含まれるようにみえますし、同法149条2項で「規則」と「業務規程」を区別している点からすると含まれないようにもみえますが。)(辰のお年ごさんのコメントで疑問が解決しました。ありがとうございました。)

ここでの議論は、黄金株をどうしろという議論ではありません。無茶苦茶な規則案ならともかくとして、そういう立場もあるなあという程度の規則案が出てきたのであれば、顧客である企業側が他の市場にいくかどうかを検討すべきという立場もありじゃないかなと思ってみた次第です。東証以外があまり選択肢にならない企業さんもいらっしゃるでしょうが、我慢ならんのであれば他の市場に移っても思ったよりも被害は少ないかもしれませんし、長期的には証券取引所間の競争が促されていいんじゃないかと。
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by neon98 | 2005-11-30 05:21 | Securities

ブルックリン・ブリッジ
マンハッタン島からブルックリン区へゆくには、いくつかの橋がある。そのうちの、最古かつ矍鑠としてなお現役であるのが、ブルックリン橋である。できあがったころは、「世界七不思議の八番目」といわれた。
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司馬遼太郎の街道をゆく39「ニューヨーク散歩」からの紹介である。建設計画の開始は1867年で、全長は1825メートルで、当時は汽車までもが橋の上を走っていたそうだ。1867年といえば、日本ではまだ幕末。工事を監督したのは、ジョン・ローブリングというワイヤーロープ屋さん。彼は測量中事故のために命を失い、息子のワシントンが技師長をひきついだ。

塔の基礎工事は、水中作業となり、潜函工法という「お椀の中の空気」工法で施工された。お椀の中の気圧の高さのせいで潜函病が多発し、ワシントンもこの病気にやられた。下半身が麻痺し、声帯もつぶれた。しかし、彼は工事を続け、夫人を助手にし、河岸の自宅の窓から望遠鏡でもって工事を監督したそうだ。

偉業をなしとげるためには色んな人が人生をささげている。昔国語の教科書で読んだ記憶がある。ふぐの美味に挑戦するために何人もの太郎兵衛さんが死んでいったのかという話だった。ふぐと橋とを比較するのはなんとなく気がひけるけど、ふぐの食べられる箇所を発見するのだって後世に残る立派な偉業。次からブルックリン橋をわたるときには、ジョン、ワシントン、工事で命を亡くした多くの人達に祈りをささげることにしよう。
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by neon98 | 2005-11-29 13:58 | 日常・海外生活

人生について考えさせられるこの2冊
大袈裟なタイトルをつけてみた。僕はいつでも乱読派なので、友達の薦めに従って本を読んでいくことが多い。先日NYに来た友人が置いていった2冊の本、流星ワゴン・重松清)講談社文庫と、時生・東野圭吾(講談社文庫)

前者は、人生について後悔をしている中年サラリーマンの話。父親と仲が悪くなった原因は?妻が浮気をしてしまうのはなぜ?息子が受験戦争に敗れ、家庭内暴力をするようになるのはどうして?死にたいと思っていた彼が連れていかれる重要な局面。彼はその後何が起こるか知っている。彼はその局面でどう行動していくのか?彼は未来を変えることができるのか?

後者は、遺伝病により子供が長くは生きられないとすれば、子供を生むだろうか?そのような遺伝病を持つ彼女と結婚するだろうか?というところから始まるストーリー。

自分自身の人生に後悔をする局面はなかったか?もし悲惨な結果が待つとわかっていたら、何もしないか?あまり深く考えてみても答えはでないけど、少しだけ考えてみるのがいいかもしれない。いずれの小説も親子の交流を題材に人生を扱う、そんな感動的なテーマだった。前向きになれ、感動的なストーリーが好きな単純なあなた(僕と同じ)にお薦め。
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by neon98 | 2005-11-29 10:59 | 読書・映画等

日清紡によるTOB価格の引き上げ
日清紡、新日本無線TOB価格引き上げずなんてエントリをした後に、11月25日に日清紡がTOB価格を引き上げた(プレスリリース;PDF)
変更後の買付価格880円は、株式会社エム・エイ・シーが提示する買付価格900円を下回ってはおりますが、新日本無線が当社グループ企業となることによって、新日本無線の中長期的・継続的な企業価値・株主共同の利益の確保・向上が達成できると自負しており、当社の提案内容は、総合的な視野から見て株式会社エム・エイ・シーの提案内容を上回るものであると確信しております。これは製造業者である当社として、マネーゲームにはしないとの決意表明でもあります。今後、再度の買付価格の引き上げを行うことはいたしません。
TOBの局面において、短期的な企業価値と中長期的な企業価値を比較できるという意味で、今回のTOBはとても面白い。

売却予定の株主にとっては、中長期的な企業価値は本来どうでもいいわけで、本来は「売ってほしい」という提案においては何も意味をなさない。従業員の賛同という点も何も意味をなさない。中長期的な企業価値は継続して保有する株主にとってのみ説得力があるはずだ。但し、これは当該株式売買取引の是非という局面に限定された話で、例えば売却予定の株主であっても、付随する他の取引によってメリットが受けられるかどうかも考慮しないといけないことになる。具体的には、日本無線が、日清紡の提案に応じることにより、日清紡と長期的な友好関係を維持し、また新日本無線との営業取引を継続できるなどのメリットがあると主張するのかもしれない。

依然として、日清紡の提示価格はMAC提示価格より低く、価格の点においても購入予定株式数の点においても、日本無線以外の新日本無線株主にとって魅力的な提案ではない。あくまでも相対取引を実行するために、日本無線側が応募しやすくしてあげたということにすぎない。日本無線側としては、あくまでも日清紡に売却するだけのメリットの方が大きいことを立証するだけの準備をしていくことになろう。
日清紡の提案に応じることによりTOB取引以外から生じるメリット>1株あたり20円の差額
という不等式を具体的な事業計画から導き出すことができ、有能かつ公正な第三者の意見をおさえられれば、裁判所が事業計画が非現実的だとかいうことは間違っているし、能力的にもできないはずだ。依然として価格差は存在するものの、1株あたり20円の差額と60円の差額とでは状況は大いに異なるはず。

MAC側としても想定内の対応だろう。村上氏がどう対応してくるのか。差止め?といっても、日本無線は現在までのところ公式には態度を明確にしていない(当然の戦略だ)。保全の必要性の観点でも争いが生じるだろうし、そもそも何を根拠に差止めが認められるのかも難しい。ひょっとしたら40円の値上げは何らかの落としどころを意味しているのだろうか?なんて推測も。(私は何の秘密情報にも接触していませんので、株式投資判断はあくまでも自己責任でお願いします。)
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by neon98 | 2005-11-29 05:09 | M&A

Boston
d0042715_10361839.jpg直前のAssignmentを夜中に終わらせ、Bostonに向けて出発。睡眠不足での運転を避けるため、出発がやや遅れたものの、同僚のアメリカ人に借りた車をぶっ飛ばすこと約4時間半。無事ボストンに到着。まずは、ハーバード大学見学。全世界の秀才たちの英知、冨と努力により築き上げられた大学だけあって、静寂さの中に活気を、歴史の中に現在を見出すことができるキャンパスとなっている。
もちろんボストンは寒いが、幸いにも天気は悪くない。Freedom Trailを歩いていく。アメリカで初めて信教の自由を認めたボストン植民地、ボストン茶会事件など日本でも学んだ遠い歴史の記憶が喚起されていく。
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ケンブリッジとボストンの間にかかる橋のひとつ。これは塩・胡椒のビンに似ているのだとか。
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食事も最高。リーガルシーフードで、トマトソースベースのブイヤベースを食す。アメリカ人というと、日本人と比較してうまみ成分を感知する細胞が少ないそうで、いわゆるダシの味をあまり必要としないんだとか。スープに旨みがなく、塩味しか感じられないものがたくさんある。しかし、これだけのシーフードを大量に投入したブイヤベースはさすがにうまい。嫁さんと一緒にロブスターにもかぶりつく。
次の日の昼食は、クラムチャウダー2005年No.1の店へ。Samuel Adamsを頼み、待つこと数分、オーダーしたクラムチャウダー、オイスター各種が運ばれてくる。すっかりボストンを満喫したわが一家、帰りのドライブは「ボストン最高!」「来年も来るか!」てな感じでご機嫌。「ハーバード行ってもよかったなあ。」なんて、出来もしないことをほざいていた。
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by neon98 | 2005-11-28 10:57 | 旅行記

研修生活ー明日からThanks Giving
LLM卒業後、定番コースであるアメリカのローファームでの研修生活をしている。アメリカにおける法律実務を垣間見るというのが主な目的なのだけど、常時仕事があるわけじゃないというのが実態のようだ。暇だよー、みんなにそんなことを言われながら、はじめた研修生活、今のところ、そこそこ楽しい。

幸い、僕の場合はそれなりに研修の目的を達成できる程度の仕事量はある。もちろん多いわけじゃないのだけど、こちらでは、プロジェクト毎に特定の人を割り当て、比較的少数のプロジェクトに専念させるというスタイルが普通のようで、各アソシエイトの手持ち件数がせいぜい5-6件という程度らしい(もちろん事務所により相当スタイルに差があると思うが。)。日本語での仕事だと、すぐに終わる程度の仕事量でも英語で慣れない英米法のリサーチなどしていると、どこか不安があってやたら時間ばかりかかってしまう。

日本にいるときのように、責任のある部分を担当してもらえないのはまあしょうがないかというところ。アメリカの弁護士が、日本の法科大学院で一年だけ勉強し、たどたどしい日本語しか話せないとしたら、そいつに責任のある仕事を振るなんて、日本でも考えられないことだ。

今のところ、研修の中身そのものよりも、アメリカのファームのシステムを見ているのがとても楽しい。効率的だか、非効率なのだか、よくわからない分業システムのもと、すさまじい数の役職があったりする。結論のよくわからないRisk Aversiveな意見書を読んで、ここまで逃げなくともと思ったりもするが、それは予測可能性の乏しい国ならではのことかもしれない。

ということで、明日からはサンクスギビング休暇。ちょっと遠出をしようと寒いボストン行きを計画中(計画が遅いか?)。。。だったのだが、たった今「急ぎのリサーチ」をゲット。どうなる?サンクスギビング?Neon98は無事ボストンに行けるのか?
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by neon98 | 2005-11-24 04:49 | 日常・海外生活

日清紡、新日本無線TOB価格引き上げず
Nikkei.co.jpより、日清紡が新日本無線に対するTOBの買付価格を引き上げない方針を決定したとのニュース。日本無線がリスクをとって日清紡に売却をすると決定をするのであれば、日清紡側としては価格をあげる理由がない。先日のレポートの設問5と設問6の状況が生じてきたわけだ。設問6の答えを村上氏が直々に教えてくださいますし、場合によれば設問5の答えが裁判所で聞けるかもしれない。まずは、日本無線の経営陣が安い売買を優先する理由についてどう理論武装できるのか、その次に村上氏がどう攻めるのか、しばし注目。
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by neon98 | 2005-11-24 00:36 | M&A

あるCEOの悩み
Harvard Business Schoolのケーススタディを友人から入手した。敵対的買収の場面において経営陣と取締役会はどのように行動したのか、彼らがどのように考えたのかを知るための教材として非常に興味深い。残念ながらこのケーススタディは無料では入手できないが、このサイトから有料(6.5ドル)で入手可能である。この間のラブホテルの実証研究もそうだが、米国では実証研究が充実している。日本での敵対的買収の議論は幾つか裁判例が出たとはいえ、まだまだ議論が始まったばかりであり、様々な意味で方向性が修正されていくだろうと思う。法科大学院での講義・ゼミの中で、コーポレートガバナンスのあるべき制度論を論じるとともに、現実にどのように機能しているのかという側面もあわせて教材に取り入れていくべきというのは贅沢な望みだろうか。

ここでご紹介するのは、90年代の「選択と集中」戦略ブームの中での一つの敵対的買収事例に関するケーススタディである。敵対的買収に応じたCEO・取締役会の動きが記述されている。著作権法で許容される範囲内での紹介になること、添付されたレターを完全にはご紹介できないことから、私のエントリを読まれた方が原文を読んだ場合と同じある種の感想を感じられるかどうかは自信がない。もし興味があれば、有料で入手して原文を読まれることをお薦めしたい。

エントリからうまく伝わるかどうかは別として、私の興味は実際問題誰が買収提案に応じるかどうかの決定権を持っているのかという点にある。法的には取締役会、でも実際は?

1. American Cyanamid(C社)

C社は、1907年に肥料、カルシウムシアナミドを製造する会社として設立され、1922年以上多角化経営を進めていた。1940年代から50年代にかけて同社は製薬事業を強化していった。60年代から70年代にかけ、同社は冬の時代を迎え、製品のシェアを確実に落とし、80年代にはコア事業に集中する必要性を感じるようになった。
歴史的にC社は新しい薬品を開発するだけの能力をほとんど有しておらず、同社の製品は特許期限切れまたはまもなく切れるもの、ライセンスを受けたものに限定されていた。先代CEOはライフサイエンスの分野に特化するため、研究開発に力をいれ、社内に研究者精神を植えつけるよう尽力したが、1984年から1990年までの間、残念ながら収入に貢献する新薬は一つも生み出されなかった。ライフサイエンス分野に貢献しない事業は次々と他社に売却されていった。
 C社のChairman/CEOであるAlbert Costelloは、1957年に化学者としてC社に入社し、1993年に社内からCEOとして登用された。CostelloのもとでもC社は製薬事業(特にワクチン開発)に特化することを目指し、研究開発費を投下し、化学事業はスピンオフするなど「選択と集中」を進めていった。1994年、C社は、SmithKline Beecham(S社)との間でAsset Swapを実施するべく、協議を行っていた。このAsset Swap契約のもとでは、S社はC社に対してワクチン・動物健康事業を譲渡し、C社はS社に対して製薬・ビタミン事業を譲渡し、相互の製品ラインナップを強化することになっていた。

2. American Home Product(AHP)による敵対的買収提案

 AHPは、C社を取得したいと考え、合併協議に応じるようCostelloに面会を申し入れていた。だが、新聞で発表されたAsset Swapの情報に接し、Asset Swapを行う前のC社に興味のあったAHPは直ちにC社の取締役に対して1株あたり95ドルの価格で株式取得を申し入れるレターを送付した。次の日には、Costelloに対して友好的買収を申し入れるレターを送付した。AHPの提案を受け、C社の株価は63ドルから90.25ドルまで高騰した。

3. C社の取締役会の議論

CostelloはなおAsset Swapを進めるつもりでいた。しかし、突然Asset Swapの代替案を示された取締役会は、Asset Swapの長期的価値をDCFで算出するよう求めた。Asset Swapを進めることにより、株主にとってより良い長期的な価値を提供できるのであれば、Asset Swapに賛成するが、そのためにはNet Present Valueの算出を要求したのである。C社は、M投資銀行の助言を得てAsset Swapによる企業価値を算定することにした。
AHPはC社の定款にある買収防衛規定が憲法違反であると主張する訴訟を提起し、翌日には95ドルでの敵対的買収を開始した。CostelloとAHPのCEOの面会も合意に至ることはなく、AHPは更なるプレッシャーをかけるべく、買収価格を100ドルにつりあげた。

4. 取締役会決議
AHPは、C社の取締役会開催日にあわせて提案価格をつりあげてきた。M投資銀行のアドバイザーは数週間の検討を終えた後、以下のように回答をした。
Asset Swapを行ったとしてもNet Present Valueは75ドル以上にはならない。スワップはもう代替案ではない。従って、フェアネス・オピニオンは署名できないと。
この時点で取締役会の結論はほぼ見えていた。先代CEOですらAHPからの提案に賛成しているようだった。翌日、C社の経営陣はAHP社と最終交渉をし、株主に対して0.4625ドルの配当を行う権利と、1株あたり101ドルの提案を「勝ち取り」取締役会は全員一致でAHPの買収提案を支持した。
社外取締役であるMacAvoyは取締役会の決断を褒め、株主に対して本来負っている以上の成果をあげたとし、取締役会のメンバーで夕食に行くことを提案した。Costelloはこう答え、そのまま去っていった。
私はその夕食には行かない。これは全て防げたはず事態だ。こんなことをするべきじゃなかった。
5. CEO後日談

Costelloは、ケーススタディの著者に対するレターを書いている。
S社とのAsset Swapを好んでいたのは事実だ。私はC社をワクチン・動物関連事業・農薬事業で一番にすることにより、株主に還元したかった。しかし、株主価値の実現に常に焦点をおいていた私にとって、AHPの提案以外に方法がないことは明らかであった。社外取締役のMacAvoy氏が理解できなかったものは、研究者からCEOになるまでの37年間にわたる会社への感情的なつながりである。彼はまた会社に対してベストを尽くしてくれた従業員に対して私が感じている責任をも理解できなかった。
6. ケーススタディから学ぶべきことは何か

敵対的買収防衛をする場合、経営陣らの保身目的を防止するための安全弁が必要であることは言うまでもない。安全弁は、独立取締役の判断であったり、弁護士・会計士・投資銀行アドバイザーら専門家の助言であったり、経営陣らのインセンティブを株主と合致させる報酬プランである場合もあろう。裁判所の司法判断がこれらを実効的に機能させる役割を営むこともまた言うまでもない。これらの米国型制度設計を導入することに基本的に反対するつもりはない。

「あるCEOの悩み」がうまく伝わらなかったかもしれない。著作権の問題があり、レターなど、ほんの一部しかご紹介できていない。このように銘打ったのは、Costello氏に対してどこか共感できる部分があったからにほかならない。彼は、AHPから地位を提供されたものの、それを断っているのであって、地位保全のために行動したということは見受けられない。そのうえで、会社とのつながり、従業員に対する責任を強調し、目の前の高い買取提案よりもビジネスでのシナジーを活かせると考えたAsset Swapを実施したかったというのも人間として理解できる。そのうえで、自分の役割を認識し、潔くAHPの提案を受け入れるのも経営者として立派である。社外取締役、専門家による監視効果がうまく作用した事案なのかもしれない。

素朴な疑問である。投資銀行にたくさん優秀な方々がいらっしゃるのは承知のうえで、敢えて疑問を述べる。当然ながら、投資銀行の方にC社のワクチン事業の見通しが判断できるわけではない。彼らを責めるべき筋合いのものじゃなく、そのビジネスの専門家じゃないのだから当然である。顧客から出された財務資料、各社の企業情報との比較調査による「客観的な専門家としての意見」が求められているわけである。
社外取締役も同様の面があるうえ、短い期間で議論をすることを余儀なくされ、作成された資料の裏づけをとることなど不可能である。司法審査基準の詳細は省くが、社外取締役にしても株主からの責任追及を回避するためには、利益相反の問題をクリアし、専門家の意見を聞くのが実際である。
それでは専門家が買収提案の方が株主にメリットが大きいと判断したら、取締役は従わないといけないのだろうか。従わなかったら、必ず責任を問われるのか。
理論的には必ず責任を問われるとは限らないだろう。でも、誰がそんなリスクをとるというのか?
事実上、フェアネス・オピニオンが防衛策の採否を決定づけることになるのではないか。それでいいのか。
経営陣とすればリスクをとれ、信頼でき、裁判所から文句をつけられることのない経歴を有し、柔軟なアドバイザーを常に確保しておくべきということかもしれない。

どんな制度にも悩みはつきもので、フェアネス・オピニオンを求めない制度がいいかというとそんなことはない。比較対照のうえ、何が一番いいのかという問題にすぎない。それは承知のうえで、今日は少し悩んでみた。どうなんでしょう?
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by neon98 | 2005-11-23 07:06 | M&A

MBE Score
BarExamの合格結果が書類で返ってきました。正式回答は書類を待てとの指示だったので、これで合格は確定したことになります。

BarExamの準備方法はそれぞれ違いますから、誰の勉強方法を参考にするかは個人の選択の問題だと思います。その参考資料になると思いますので、返ってきたMBEのスコアを公表しておきます。Raw Scoreで158、Scaled Scoreで163が私のMBEスコアです。

平均を超えていることは確信できるものの、これがどの程度のものなのかはよくわかりません。参考までに、national conference of bar examinerのサイトからJuly 2004の数値をとると、以下の通りになります(2005年の数値は未掲載でした。受験者層の同質性から考えると、前年Julyとの比較が一番いいように思います。)。

----------Raw-------Scale
Mean----132.62------141.22
Median---134---------142
Max------184---------187

個人的な感想からすると、ずば抜けた数値ではないが、目標値には十分到達したという感じです。私は日本語でもエッセイよりも択一の方が相対的に得意な人間で、時間が限定された中でのエッセイはどちらかというと苦手です。個人的特性と、私の経験談とを踏まえて、自分に合致した方法を選択していただきたいと思います。後日になると忘れてしまうので、覚えているうちに書き留めておきました。もし参考になれば幸いです。
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by neon98 | 2005-11-22 13:06 | NYBar・BarBri

REPORT - Interesting Case Study
47thさんが、村上ファンドによる新日本無線に対するTOBについてエントリしていらっしゃいます。47thさんの柔軟な発想力、経験に裏付けられた知識を無料で披露してくださるのですから、彼のブログを読まないのはもったいないというわけで、ほとんど毎日チェックしています。ロースクールに在籍しながら、更新頻度が落ちず、かつ、内容のある記事を書き続けるというのはほとんど驚異的です。

47thさんが前回ラブホテルネタにチャレンジしてくださったからというわけではありませんが、Notes and Questions形式の出題に果敢に挑んでみることにします。「知らぬは一時の恥、聞かぬは一生の恥」なんて言い訳をしながら、匿名ブロガーはテキトーな回答を用意してみました。私は47thさんのエントリで初めてTOBのことを知ったくらいですから、秘密情報への接触もありません。回答の中で株価への期待についてテキトーな意見を述べますが、有価証券報告書などの公開情報すら読んでいない私がテキトーに書いただけのものですから、株式投資は自己判断で行ってくださいね。

1. 設問1
本件が「日本無線から日清紡績への子会社株式売却」だとすれば、なぜ、日本無線と日清紡績は直接に契約を行わなかったのか?また、なぜ、日清紡績は買付上限を設定したのか?買付上限を設定しなかった場合には、買付価格はどうなると予想されるか?それは何故か?
まず、前段は強制的公開買付制度の存在という理由に尽きます。例え相対取引を想定していたとしても、現行の公開買付法制度の下では上場会社の3分の1超の株式を取得するためには公開買付によらなければなりません。従来使われてきたTostnetなどの立会外取引もライブドア事件の余波を受けて公開買付を回避する手段としては使えなくなりました(証券取引法第27条の2・公開買付けの対象となる立会外取引の指定(金融庁告示平成17年7月8日))。厳密にいうと、公開買付制度が事前の契約締結まで禁止していると読むかどうかは別問題だと思いますが、いずれにせよ、取引の実行は公開買付制度への応募という方法をとらざるを得ませんし、応募株主は違約金・損害賠償などの請求を受けずに応募を撤回することができますので、契約の締結自体に意味が乏しいということになります。

日清紡績が買付上限を設定した意図は、日清紡績側のファイナンスの問題や新日本無線側の理想とした株主分布の問題など色々な説明が可能なように思いますが、いずれも関係者のビジネス上の戦略上の話ですから想像以上の説明はできません。端的な答えは、日清紡績と日本無線との相対取引のニーズが設定された買付上限数で合致したということでしょう。
日清紡績側からすると、3分の1超でも十分とする考え方から最終的にGoing Privateしてしまうという考え方までありうるわけですが、公開買付提案からは日清紡績としては少なくとも過半数をとれば十分と考えていることははっきりしています。公開買付制度では、応募株式が上限を超えた場合は按分比例されますから、日本無線としては全株式売却するためには多い方がいいわけですが、日清紡績側としては過半数をとれば十分と考えたことが推測されます。日本無線側としては支配権を移転する以上、あまり多くの株式を残していてもしょうがないわけで、少なくとも保有株式が全て売却できる可能性くらいは残しておいてほしいと思ったと推察されます。日清紡績が新日本無線の支配権を確保するためには日本無線との合意が必要不可欠なわけですから、両者のニーズが合致した時点が買付上限だったというわけです。その意味では、「この買付予定株式総数は日本無線という特定株主からの買付けを主目的とするものと見受けられます」とするMAC側の説明は正しいと推察されます。

買付上限を設定しなかった場合の価格に与える影響ですが、この取引でコントロールプレミアムがどのように考慮され、誰に対して与えられているのかを考える必要があります。買手がこれ以上は不要だと主張している中で買付上限を撤廃しないわけですから、コントロールプレミアムを全ての株主に対して平等に与えようという公開買付制度の趣旨からすると日本無線という特定株主に対して支払われようとしているプレミアムが全ての株式に希釈化され、一株あたりの買付価格は下がるというのが理論的なように思います。ただ、この考察は適正な時価に対するコントロールプレミアムが支払われているという前提に立った場合の話です。

当然ながら売り手としては高い価格で売却したいわけですが、強制的公開買付制度のもとでは高い価格をつけると他の株主が応募してしまい、売り手としては売却したいだけの株式数を売却できないという事態が発生します。それを避けるために売り手としては比較的穏当な価格であっても売却予定株式数を売却するという選択をする余地が生じます。これは単なる理論的な現象ではなく、Institutional Change and M&A in Japan: Diversity Through Deals, Curtis J. Milhaupt and Mark D. West (November 2001)という論文で、1990年から2000年までの59の公開買付におけるコントロールプレミアムは平均マイナス4.72%だったということが指摘されています。売り手としては余り多くの株式を手元に残してしまうと、市場で処分する場合の値崩れが予想されますので、まとめて売りたいというインセンティブが価格上昇圧力を減殺する可能性があるわけです。

適正時価が何なのか、コントロールプレミアムが支払われているのかは個別案件の具体的評価方法によりますので、単なる一弁護士がコメントをするわけにはいきませんが、必ずしも今回のTOBにおいてコントロールプレミアムが価格に含まれているとは限らないことからすると、価格がどうなるかは一概にはいえないことになると思います。

2. 設問2
新日本無線の株式は公開買付発表まで730~750円だったのが、その翌日に835円に上昇し、その後は830円前後で安定している。市場が情報を適切に反映したとすれば、これは、投資家がどのような期待を頂いたことを示唆するか?(a)830円台で購入した株式を840円の公開買付価格で日清紡績に売却できる(日清紡績の買付には買付予定数が設定されていることを考えよ)、(b)新日本無線の取締役会が述べたような「業績の向上と事業基盤の拡大」が見込めると予想した(日清紡績とはシナジーが見込めないとする村上ファンドの主張と整合的か?)、(c)全株買付を行う第三者が現れることを期待していた(親会社である日本無線が買付に応じない限りは、およそ支配権獲得を目論む他の買付者が現れる可能性は乏しいことを考えよ)、(d)その他。
日清紡績の買付には買付予定数が設定されていることからすると、(a)の選択肢は合理的な期待としては考えにくいです。(c)の選択肢は、現実に第三者が登場したことからするとなかなか除去しにくいですが、MACという「例外的存在」まで市場が期待として取り込んでいたかというとどうでしょう。理論的には、親会社である日本無線が一度売却の判断をした以上、原則として一番高い価格の買手に売却する義務が発生し、ビッドが開始されたとして、第三者の登場を読み込むことも合理的だと思います。日本無線が一度当該価格での応募をすることが経営判断として合理的だと判断し、かつ、事前に売却の約束が存在したとしても損害賠償や違約金の支払いなしに撤回できる(MAC側も当然このあたりを計算に入れているはずです。)のですから、低い価格を提示する買手に売却するには相当の合理的根拠が必要なはずです。その意味で理論的に支配権獲得を目論む他の買付者が現れる可能性は乏しいとまでは言えないと思います。ただ、現実的に市場がどれだけの期待感を抱いていただろうかというのは、よくわかりません。日本のmarket for corporate controlの成熟度を、市場がどう見ているのかという点に帰結するのだろうと思いますが、感覚的に市場が第三者の登場を期待していたかと言われるとNOのような気がします。

私の回答は、(b´), (c), (d)のミックスとしておきます。「市場が情報を適切に反映した」という前提における情報は、市場が通常入手しえるであろう公開情報を意味し、インサイダー情報を除くとすれば、情報の非対称性は残るわけで、市場の期待としてはインサイダー情報を有するであろう人の意思決定に従属するインセンティブが存在します(あくまでも一般論ですが。)。友好的買収の事例ですから、日清紡績は事前にデューディリジェンスを終了あるいは相応の情報公開を受けているはずで、その上で日清紡績が当該価格を妥当として提示したという点は市場の期待として存在するはずです。(b)の選択肢に近いですが、市場が主体的に事業計画を判断したというよりは、インサイダー情報に近い人の意思決定を尊重したというニュアンスに近いので、(b´)としておきます。(c)も一応ありうる期待でしょうし、(d)としては過去のTOBにおける株式市場騰貴状況というデータからの期待というのがありうると思います。

3. 設問3
市場において株価が公開買付価格前後で推移している状況において、一般株主としては、公開買付けに応じることは合理的か?公開買付けにあっては、50%超を有している日本無線が公開買付けに応じることを表明しており、50%超を超える部分については按分比例での買付となるため、他の一般株主が全員応募しても、応募した株式のうち半分しか買取に応じてもらえないことを考えよ。
MACが登場する前の段階で意思決定を迫られる質問と理解しました。公開買付がなされた後の株式の取扱いを一般株主がどう予測するかという問題だろうと思います。公開買付前に一般株主が有している情報をまとめてみます。
・ 日本無線が本公開買付けに応募し、TOBが成立するという合理的予測
・ 日清紡が新日本無線の株式を最大で52.63%(間接保有含む)を保有すること
・ 東京証券取引所への上場は(さしあたり)維持されること
・ 日清紡と日本無線との間で何らかの事業に関する提携が進められること
・ (おそらく)現経営陣の構成は大きく変更される可能性は低いこと
・ その他、有価証券報告書等から得られる財務情報

一般株主が通常持つ情報レベルからして、これだけの情報でTOB終了後の新日本無線の株価がどのように変わっていくのかを予測していくのは困難です。この設問には唯一の正しい答えは存在しないはずなので、個人的な意見を述べます。一般株主は、情報の非対称性を十分に認識をして、日清紡と日本無線の経営陣がTOBの株価についてどう考えているのかという情報に着目すべきです。そうすると、コントロールプレミアムが支払われているのかという問題に戻るわけでして、売り手のインセンティブの問題に気づくところです。公開買付制度のもとでの相対取引という実態からして、格別高いTOB価格が提示されているわけではなさそうだと予測すれば、TOBに応じないことも合理的といえると思います。反面、TOBに応じたとしても半分の株式は手元に残るわけでして、リスクを分散するために半分については利益・損失確定させるというのも合理的といえるのではないでしょうか。どっちでもいいという答えだと零点ですかね(^^)。

4. 設問4
エムエイシーのプレスリリースは、新日本無線の株主が害されると主張しているのか?公開買付価格の840円が潜在的価値より安価な場合には、当該公開買付けによって新日本無線の株主は害されるか?仮に、一般株主が公開買付に応じなければ、日本無線から日新紡績に親会社が変わるだけであるが、日清紡績に親会社が変わることによって、新日本無線の一般株主の利益が以前より害されると信じる合理的な理由はあるか?
マイナスプレミアムのTOBが過去に実在したくらいですから、本件公開買付を相対取引とみれば、価格が安い=新日本無線の株主が害されるという理解は短絡的で、慎重に考える必要がありそうです。どうしても全ての株式をTOBで売り切りたい大株主が安い金額でTOBを設計したと市場が捉えると、主要株主の変更による間接的な影響以外に少数株主に与える影響はないことになります。ただ、MACのプレスリリースは、公開買付価格が安いと主張していますから応募する株主を害すると主張していますし、長期的な意味でも日清紡が株主価値最大化のためのパートナーではないと主張していますから、その意味では「新日本無線の株主が害される」と主張していることになるのではないでしょうか。

仮に、一般株主が公開買付に応じなければ、日清紡績に親会社が変更されるだけというのはその通りで、親会社の変更による利益・不利益をそれぞれの株主がどう見るのかということになると思います。長期的な比較はよくわからないという意味では、少なくとも「一般株主の利益が以前より害されると信じる合理的な理由」はないでしょう。

5. 設問5
日本無線が900円の公開買付けに応じなかった場合に、日本無線の株主から日本無線の取締役会が義務違反を提起される可能性はあるか?訴訟が提起された場合には、どのような基準が適用されるべきか?また、どのような事情があれば、責任を追及される可能性を軽減することが可能か?新日本無線の取締役会についてはどうか?
ここが一番興味のあるところです。どうなんでしょう(^^)?

日本無線の取締役は、当然日本無線の株主に対して善管注意義務を負いますから、株主の利益のために行動する義務を負うわけです。ただ、取締役として経営を任されている以上、一定の裁量を有する(行為規範)はずだし、裁判所としても取締役の専門知識に対してそれは違うというのは難しい(司法審査の謙抑性)わけです。日本法における経営判断の原則というのは、正直深く勉強したことはなく、デラウェア法のビジネス・ジャッジメントルールほど判例法の積み重ねがあるわけではありません。荒い議論をすれば、取締役が十分な情報を集め、利害相反のない状況で判断した事項については、裁判所が立ち入るべきではないといえると思います。

ただ、ここでの状況は少し特殊です。すなわち、日本無線の取締役会としては既に新日本無線の株式売却についてGOサインを出しているわけで、売却するかどうかの判断を求められている状況とは明らかに違うわけです。売却するかどうかの判断では、戦略的に保有していることが求められている株式というものがあるわけで、その戦略が正しいかどうかについてまで裁判所が立ち入るのはおかしいといえるわけです。しかし、一旦売却という決断をして、その対価が現金である場合には、原則として長期的な関係が切れてしまうわけですから状況が異なるはずです。

極端な事例をあげてみます。破産管財人が不動産を売却するにあたり、AとBが入札したとします。Aさんは1億円、Bさんは1億2000万円を提示し、両者ともに資力に不安はなく、その他の取引条件は全く同じとします。破産管財人は破産している財団の今後のビジネスを考慮する必要はないわけですから、単純に物の売買として高い値段を提示した方に売却しなければならない義務を負うはずです。でも、Aさんが買手のつかない別の不動産を5,000万円で買いますよと言ってきたらどうでしょう。

デラウェア法で言うところのユノカル、レブロンなどいずれの基準で対応するのが妥当というところまでは考えが及びませんが、少なくとも売却の決断を求められる時点と比較して、既に売却の決断をしており、その対価が現金である局面においては価格を相当程度重視して判断する義務があるとまではいえそうな気がしますが、それでも取締役の裁量が残ることは間違いなさそうです。適用される基準としては、何と呼べばいいのかわかりませんが、「価格一本勝負にはならないけれど、価格の違いを正当化するだけの事由が求められる基準」が必要といえると思います(適当な名前がなければ、neon98基準とでも呼びましょう。)。取締役側に立証責任が転換されることまではやむをえない事例といえるような気がします。

ただ、日本無線が新日本無線を売却した後も、日清紡ないしは新日本無線との戦略的な関係が残ることも十分ありえます。また、日清紡がアロカという日本無線の子会社の株式を一部取得するという事情(PDF:日清紡のHPより)もあるようです。アロカという会社も含めて一体的な組織再編成を日清紡との間で行っているとすれば、日本無線の取締役会が安価であっても日清紡に売却することを優先するだけの合理的理由があるのかもしれません。
公開買付法制は、応募の撤回に対して違約金・損害賠償の請求を禁止していますが、今後の事業戦略上の関係を切ることまでは禁止できないわけで、TOB提案に応募しなければ今後の事業提携がうまく進まないよという日清紡側のプレッシャーを日本無線の取締役会が考慮することは許されるように思います。

取締役の裁量を肯定するこうした事情が存在する場合でも、やはり危険は残るわけで、最低限専門家の意見、社外取締役の意見は求めていく必要はあるでしょう。関係者の地位保全のために日清紡への売却を優先したと言われないための工夫が必要かと思います。

新日本無線の取締役会については、日清紡への売却について賛成意見を出した後に、MACへのより高い公開買付提案に反対することが許されるかという問題かと思います。全株式の取得を提案する事例とは異なり、ここでは既存の少数株主が新日本無線の株主として残ることが予定されています(日清紡の提案の場合)。ソトーの事例では、最終的にホワイトナイトがより高額の提示を出すことを断念した時点でホワイトナイトへの公開買付提案への賛成意見を撤回し、増配提案に切り替えたように記憶していますが、たしかソトーの事案では双方から100%買付あるいは買付後のゴーイング・プライベートが提案されていたのではなかったでしょうか。

新日本無線の取締役としては、日清紡の公開買付実施後に株主として残る少数株主の利益を考慮し、MACの公開買付提案より有利であると判断できれば、より安価の提案に賛成意見を述べることが許されるはずです。その場合の司法審査基準としては、経営判断の原則が採用されるべきでしょう。

6. 設問6
日本無線が公開買付けに応じない場合には、エム・エイ・シーが採り得る選択肢には、どのようなものがあるか?それぞれのメリット、デメリットも答えよ。
法定の持株要件を充足することを前提として、日本無線への株主代表訴訟提起が現実的かと思います。商法272条の違法行為差止め請求は、善管注意義務違反を根拠としてはできないとした裁判例があったように思いますが、記憶が定かでありません。新日本無線には目に見える損害が発生していないわけで代表訴訟にはなじみませんし、取締役の第三者(MAC)に対する違法行為を請求するのも、取締役会の意見に関わらず、日本無線は株式を売却したであろうと言われればそれまでという気がします。

ちょっとダラダラと思ったことを回答してみましたが、先生、いかがでしょう?Bマイナス以上はもらえないと卒業やばいんですが、なんとかなりませんか?ゼミの飲み会で必要であれば、いい日本酒がありますんで、是非どうぞ(^^)。
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by neon98 | 2005-11-22 08:25 | M&A

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