アマチュアスポーツの常識と非常識
サンケイスポーツ(Yahoo)
昨夏の甲子園で連覇を果たした駒大苫小牧高校(北海道苫小牧市)の3年生野球部員らが飲酒や喫煙で警察に補導された問題で3日、篠原勝昌校長が同校で会見。センバツ(3月23日開幕、甲子園)への出場を辞退すると発表した。野球部の香田誉士史監督(34)と佐々木宣昭部長(54)は篠原校長に辞任届を提出、受理された。また、篠原校長も辞意を表明した。(中略)道警などによると、1日夜に苫小牧市内の居酒屋で飲酒、喫煙していて補導されたのは野球部員10人、バスケットボール部員4人の計14人。野球部員の10人は、全員3年生でセンバツに登録されている1、2年生はいなかった。
以前からこの手のニュースを見る度にいつも感じていたのですが、連帯責任にどれだけの意味があるのでしょうか。

(1)連帯責任制度にすることによりルール違反の懲罰効果を高めて抑止力を高める、(2)連座制によって集団内の監視効果を高める、といった正当化要素が考えうるには考えうるのですが、もともとの発想はもっと違うところにあるような気がします。アマチュアスポーツは精神を磨くために存在しており、心技体揃ったチームで無いと大会にふさわしくないとか、一見もっともらしいものの、連帯責任には無関係な要素から生じているのではないでしょうか。

今回は既に実質部活動を引退しているはずの先輩たちの不祥事により、何もしていない後輩たちが夢を奪われるというケースであり、また後輩たちに先輩たちの監視をせよというのも酷なように思います。全ての部員の私生活を全て監視することは不可能だし、誰でも入れるのが部活動でしょうから、全ての部員の喫煙を抑止するのは相当困難だろうと予測されます。どんなに努力をしたとしても心無い誰かのルール違反で、甲子園出場という夢が消えてしまう可能性のある仕組みを維持する必要があるのか、理解に苦しみます。

リスクがあまりに高くなると、選手は努力を継続することに空しさをおぼえるでしょうし、入部の段階で相当厳しい審査を課したり、事実上全員寮生にして監視下においたり、戦力として役立つ可能性のない選手は監視コストを下げるために辞めさせたり、健全ではないと思われる対応を発生させる可能性もあります。

少なくとも今回のケースでは3年生部員の退部なり停学なりの処分をすることでよかったのではないかと思われ、校長、監督や部長の辞任は別に辞めたければ辞めたらいいと思いますが、出場辞退という校長の判断には納得しがたいものをおぼえます。5人組みたいな発想を感じてしまうのは私だけでしょうか。
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# by neon98 | 2006-03-04 11:38 | LEGAL(General)

シリーズ 日本のCorporate Governanceを考える(11)-社外取締役論(1)
日本では社外取締役の数が絶対的に少なく、アメリカにおける独立取締役ほどの独立性を有していないという説明をよく聞きます。でもそれだけの説明だと…So What?という世界ですので、取締役会の構成について少し考えてみましょう。

取締役は、監査役や会計監査人と求められる役割が異なるわけですから、独立性とは別個に経営者的能力というものも求められる世界です。会計監査人が社内の人間という制度設計はナンセンスですが、取締役については社内の人間の方が優れている面も多いように思います。社外取締役を採用、あるいは社外取締役が過半数を占めている企業のパフォーマンスが優れているとの実証研究はないともよく聞きます。たぶんそうなんでしょうし、仮に統計数値をとって有意の差があったとしてもモデル論というものがないと因果関係というものをうまく説明できません。

ただ、これらの議論は社外取締役が制度として優れているという証拠がないというだけのことであって、例えば経営陣との利益相反がある場合に外部の人間がふさわしいということまではいえると思います。取締役会の構成においてどの程度外部の人間が必要かという議論は、取締役として求められている役割(アドバイザーなのか、監視役なのか)、判断を求められる局面(投資判断なのか、敵対的買収防衛の判断なのか)により相当変わるだろうと思います。社外取締役と内部取締役とのいずれがふさわしいとは一概にいえないという命題を基本にすえて考えていきたいと思います。

ちなみに私は社外取締役だから会社と利害関係がないとか、保身に走らないという主張は理解できません。社外取締役とはいえ、会社から報酬をもらっているわけですし、普通経営陣と何かの縁があって採用されているわけですし、敵対的買収者がきて首をすげかえられるとすれば保身を考えても不思議ではないと思います。30年継続して勤務してきた会社に取締役として入る場合との差異は、思い入れの違い、転職の容易さの違いという相対的なものにすぎないでしょう(転職の容易さというのはかなり重要な要素ではありますが。)。アメリカの独立取締役が買収防衛の時点でうまく機能しているとすれば、その理由は取締役が独立しているからというよりもむしろ株式報酬により良い買収条件を引き出すとフロリダに素晴らしい別荘が買えるからであり、社外取締役となっている階層にとって転職活動はさほど困らないからではないかという気もします。既に10億円持っている人が株式を高く売却するインセンティブを持ちながら奥様とヨットと別荘を買う相談をしている状況と、自宅にいると奥さんに邪魔者扱いされ、子供がロースクールに行きたいなどと言い出してまだまだ会社に勤務しつづけなければならない状況とでは、判断が当然変わるんでしょうね。

単なる駆け出しの一弁護士が私見を述べてみてもしょうがないので、次回以降は、題材を三輪・神田・柳川『会社法の経済学』(東京大学出版会)と小佐野広『コーポレートガバナンスと人的資本』に求めて考えていくことにします。

このシリーズ、他の話題を交えながらダラダラいきますので、ごゆっくりお待ちください。
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# by neon98 | 2006-03-04 07:46 | Corporate Governance

Poison Pillの実証研究
(03/03/06に書きぶりを調整し、引用を整理しました。)

NYlawyerさんがInteractiveで素敵な日々という面白いエントリを書いていて、John C. Coates, Takeover Defenses in the Shadow of the Pill: A Critique of the Scientific Evidence, 79 Tex. L. Rev. 271という論文をちょうど読み返していたところだったので、関連エントリをする。YermackというB-school教授の主張としてNYlawyerさんが引用しておられる箇所が
そもそもライツ・プラン(Shareholder's Rights Plan)という名前はミスリーディングである、(ピルがあればプレミアムが上昇することを示すデータは認めつつも)そのようなデータは防衛策が存在することで買収が実施されなかったという機会喪失を見逃している
というもの。前から同様の疑問をおぼえていたので、なるほどと思った。

ポイズンピルの実証研究についてよくとりあげられるのが(1)Poison Pill発行時のイベントスタディと(2)Poison Pillによる買収プレミアムスタディである。Yermackの主張はプレミアムスタディに関係する。

1. Poison Pill発行のイベントスタディ

Poison Pillが発行されたのちの株価変動については有意のデータは見られていない。買収防衛策はエージェンシーコストを高め、それを嫌う投資家による売り圧力になりうるとする仮説については実証結果からは示されていない。買収防衛策を導入した場合に、経営陣が敵対的買収にあう可能性の高い企業であるという認識を持っていると投資家が認識し、逆に株価が上昇するという仮説についても実証結果からは示されていない。イベントスタディからは何も読み取ることができない。Shadow Pillという理論付けをする彼の立場からは有意のイベントスタディは得られないはずなのだろう。

2. 買収防衛策の株主防衛策

防衛策がとられていた場合の買収の方がプレミアムが高かったという実証結果は、ポイズンピル推進派からよく利用される。John Coatesはいかなる企業でも取締役会限りですぐにPoison Pillを発行しうる(Shadow Pill)のだから、買収者も株式市場もShadow Pillの存在を織り込んでいると主張し、プレミアムスタディは相関関係は示しても因果関係を示さないとしている。

ロースクール時代に読んで思ったのが、プレミアムスタディがどこまでの事例を拾っているのだろうかという疑問である。私はプレミアムスタディの原文にあたっていないので批判があたっているのかどうかはわからない。

まず、防衛策が採用されている企業に対しての買収防衛開始をあきらめた場合は当然ながらプレミアムスタディに登場しない。世間に認識されないのだから当然である。この場合の機会損失をどう考えるのか。

それから、買収がかけられ、プレミアムが提示されたとして、高いプレミアムによる買収が実現されなかった場合をどうプレミアムスタディがとらえているのだろうか。防衛策をとることにより高いハードルがあるのであるから、高いプレミアムが存在することはむしろ当然であり、高いプレミアムが実現する確率というものを適切にプレミアムスタディに取り込むことができなければ、なんともいえないのではないかという疑問をおぼえている。

稀にしか買収が成功しない防衛策を経ているとしたら成功した(または提案された)買収のプレミアムが高いのは当然であり、失敗した(または提案すらされなかった)買収により株主が得ていたであろう利益はどこにいったのかという問題は残る。

イベントスタディとプレミアムスタディとの両方をもってしても防衛策がとられるべきだとも、とるべきではないともいえないのではないか。こういう実証的アプローチなり、仮説提示なりで政策論争がなされているあたりがアメリカの論文の面白いところだ。
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# by neon98 | 2006-03-03 14:36 | M&A

子供が若いうちに留学させる?
日曜日、妻の友人である韓国人女性Fが訪問してきた。ちょうど僕が夕食に手抜き料理Tacoを準備していたときだったので夕食に誘ってみた。英語があまり上手ではないうちの奥さんが友人になるのは日本人以外は韓国人が多い。片言英語、片言韓国語、片言日本語で会話をできるだけの文化の近さと共通の話題があるんだそうだ。たしかに家族観、上下観、男女観においてよく似ているし、言語も近いし、最近は韓国ドラマという共通の話題もある。

彼女は高校生の時に留学目的で単身渡米し、大学も卒業し、CPAとして働いている。裕福な家庭だからできたことなのだろうけど、若い年代で海外経験をつまそうとする親は結構多いそうで日本人以外のアジア系に共通するプラクティカルな教育観はここにもあるんだなあ。徴兵制度が富裕層子女の留学を促進しているなどという説もあるけど・・・。

彼女、あまりにも長期間親と離れて住んでいるので、いつかは韓国に帰りたいと思いながらも、戻ったときの働く女性に対する感覚に対する違いに耐えられるだろうかと不安になっているようだった。会計士などの専門職だと多少はましとしても、就職の男女差というのはやはり厳然として残っていて、ボーイフレンドも働くことは望んでいない。その反面、両親は保守的な国内での活躍が難しいからこそ、留学に早くからだして投資をしてきたのだといい、韓国に戻ってくることは望んでいないのだという。日本でもよくある光景だし、僕も女性だったら同じように考えるだろうなあと思いながら聞いていて、「少しずつだけど時代も変わりつつあるよ・・・。」と無責任ともいえるような言葉しか出てこなかった。"I might be too strong to live in Korea."なんてことを言うので、どういう意味かと聞いたら男性に好かれる奥ゆかしさがないから苦労するだろうとのこと。こういう発言から、英語の方が上手になってもこの人は韓国人なんだなあと思ってしまった。奥ゆかしいように見える奥様方は実は結構強かったりするんだからわからないと思うんだけどなあ。

この話題、わが家での教育論議につながる。教育論議とは、外国語教育であったり、海外に出すかどうかというあたりの将来の論争である。僕は幼少の頃少しだけ海外生活を送っていた「なんちゃって帰国子女」なのに対し、嫁さんは「純粋のやまと撫子」なので実際意見の食い違いは結構ある。結局本人が選ぶことだからというあたりと、外国語(特に英語)ができないとつらいだろうねというあたりは意見が一致しながら、中高生くらいの段階で一度夏休みだけでも海外に放り出し、興味を持たせるくらいのことはした方がいいんじゃないかということを話し合ったりする。

僕が日本に帰国し、日本に居住し続けるだろうということは現実に予測できるので、子供を帰国子女として育てるという選択肢はないし、本人が望めば別として高校生くらいから子供を海外に出すという選択肢もない。あとはこういう選択肢もあるよと、成長過程において、さりげなく、海外経験も触れられるようにしてあげるくらいだろう。そのときに財政的に豊かであることを祈るばかりである。

語学の勉強は別に日本にいてもできると思うのだが、若いうちにカルチャーショックを受けておくべきだというのが持論。Peer Pressureの大きさ、Race to the middleといった部分にどうもなじめない人間はさっさと海外に出てしまって外から日本を見た方がいいんじゃないだろうか、なんて思ったりする。
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# by neon98 | 2006-03-02 06:52 | 日常・海外生活

コーポレートガバナンスと人的資本
実はまた大量に本を購入しちゃいまして、帰国までに読みきらないとなんて考えているとBlog用に法律ネタを書いている時間がないんですよね。

今は小佐野広『コーポレートガバナンスと人的資本ー雇用関係からみた企業戦略』を読んでいるのですが、経済学者のわりには経済学っぽくない、もっといえば科学っぽくない本で、主張だけがわりと淡々と書いてあるという感じなので、穏当な主張にある程度納得しつつも斬新さを感じることなく読み進めています。

株式持合いの減少や敵対的買収の増加により従業員が人的資本を投下するインセンティブが乏しくなっていることを背景としつつ、従業員の定着を促すにはどうしたらいいのか、みたいな話を淡々と書いておられるのですが、法律家でも可能なレベルの分析にとどまっていて、「へえー!」というボタンを押す機会がありません。

あっさりと「定着的な労働システムがコーポレート・ガバナンス改革を妨げる可能性がある」という実証結果なんか紹介されているのですが、何をもって「ガバナンス改革」と主張されているのかがわからない以上、どういう主張なのかがわからないんですよね。これくらい多義的な言葉を使用されるのであればもう少し丁寧に実証結果を紹介されないと、意味がないような気がします。テーマとしてはとても重要なことを扱っておられるので理解をしたいのですが、この本だけを読めば概ね理解できるという程度の記述量がないのが残念なところです。

面白そうな議論があればご紹介しますが、やや期待外れの感が否めないのは、法律家として自らの考えをボコボコに打ち砕いてくれるような斬新なものを期待しているからなのでしょうか。値段と分量からして専門書ではないのでやむを得ないといえばやむを得ないのですが、ビジネスマンを対象とするほど実践的な理論ではないし、少し読者層を読み違えたような感じがしました。

まあ社外取締役の議論やらインセンティブとしての株式保有制度などは比較的丁寧に書いてありそうなので、もう少し読めば評価が変わると信じたいものです。
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# by neon98 | 2006-03-01 01:08 | 読書・映画等

久米島マラソン参加計画ーこの一杯のうまさのために
渡米する前から少しずつ気になっていたんですが、やはり体力が落ちていることは争いようがないみたいです。根拠もなく、自分だけは違うとか思ってたんですが、ここ数年もの間、酒やらタバコやら、深夜まで働く不規則な生活やら、体によいことは何一つしていないのだがら当然ちゃあ当然なのかもしれません。

運動といえば、弁護士1年目はジムに通い、週に2度はプールで泳いでいたのだけれど、24時間営業のジムで深夜4時まで泳ぐことが果たして体にいいことなのか疑問に感じて中止。休日にたまにプールに行って2-3キロ泳いで帰るくらいしかしてませんでした。でも数年しか仕事しないならともかくとして、このあと30年から40年は働いていくわけで、仕事って体力勝負なんですよね。

d0042715_5435150.jpgそう思って、禁煙、1日1時間のトレーニングを開始してから2週間が経過しました。タバコやめると食事がうまくてダイエットにはならないんですが、それでも体に良いことしていると気持ちいいんです。ダイエットというより、体鍛えてアドレナリンを発散させることが目的なので、アルコールは同じように飲んでますが、運動後のビールがとても爽快です。

Blogを書いている友人にちらっと誘われたのがきっかけなんですが、肉体増強計画がかなり気持ちいいので調子にのって、久米島マラソン(ハーフにするけど)にでも参加しちゃおうかと思ってます。ということで、マラソン後のオリオンビール&久米仙WITH沖縄料理を目指していきましょう。休みとれたらそのままシュノーケルと行きたいですね。
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# by neon98 | 2006-02-28 05:06 | 日常・海外生活

Niagara Fall
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2004年9月頃の写真。カナダで一番俗っぽいと言われるナイアガラ。たしかにそういう面もあるし、食事がおいしいわけではないけれど、それでも一度は訪れる価値があるだろう。写真は小さい方のアメリカ滝だが、虹がきれいにうつった貴重なものなので載せてみた。
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# by neon98 | 2006-02-26 13:53 | Photo

District of Columbia
[02/18/06-02/20/06 Travel to Washington DC]

Washington DCまで約320マイル(約510キロ)。東京-大阪間が550キロとかだからあまり変わらないんだけどもう車では近いという感覚になってしまった。多少混んでいるHighwayのせいで約5時間30分もかかってしまった。目標タイムの4時間30分は実現できず、しょげる。
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VirginiaのRosslyn駅付近のホテルにチェックインし、地下鉄で移動。あっという間にSmithsonianへ。あまりの寒さに外をぶらぶらするのは断念し、National Museum of Natural Historyへ行くもすぐに閉館。まあ無料だし、文句いうまい。やむなくDepartment of JusticeやらFBIやらを見ながら中華街へ。初日の予定は軽めに終了し、翌日はNational Air&Space Museumへ。ロケットやら航空機やらを鑑賞。Moon Stoneはおいていなかった。
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日本軍の零戦を発見。エノラ・ゲイはない。Kamikazeの恐ろしさが強調されている。パールハーバーを卑怯な戦いとするのは良しとするが、江戸時代後期以来侵略に近いかたちで日本を含むアジアを威嚇しつづけた歴史も展示せよと言いたくなる。まあ無料だから許してやる。
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Congressはさすがに美しい。
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Congressから見たWashington MonumentとThe National Mall。計画された政治都市としての色彩。
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Lincoln Memorialで偉人と対面。
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White House・・・大統領出て来い。

子連れなので機動力に欠けるのはいつもどおり。Georgetownと最高裁をみられなかったのはやや残念だが、桜の季節にでもまたいくか。食事面においてはBostonの圧勝。
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# by neon98 | 2006-02-25 12:32 | 日常・海外生活

シリーズ 日本のCorporate Governanceを考える(10)-株主中心主義と倒産状態(下)
そろそろ出題者がほとんど忘れかけていたシリーズ 日本のCorporate Governanceを考える(8)-株主中心主義と倒産状態(上)を放置したままという現実に目を向けねばなりません。わかりやすい出題意図は株主中心主義なるものが倒産状態に陥ったときにどうなるのか、日米を比較してみようというものでした。以下の記載は、倒産関係法の本を一切持参しておらず、条文程度しか確認していませんので、多分に誤りがある可能性があります。

1. 取締役は誰に対して義務を負っているのか

新会社法では「株式会社と役員…の関係は、委任に関する規定に従う」(330条)としており、受任者が善管注意義務を負う名宛人は委任者である会社と考えるのが素直でしょう。忠実義務に関する355条は明確に株式会社を名宛人としている点からもそういえます。

一歩進んで他のステークホルダーとの関係について考えると、例えば江頭先生は「「会社の利益」とは、窮極的には株主(社員)の経済的利益であり、それを最大にすべき義務である」とされており(江頭株式会社法第二版330頁)、株主利益最大化という目的のために義務が存在することは明記しておられます。

余談ですがここから先、株主利益最大化をどこまで貫くかはかなり学説間の差異が生じるところです。寄付行為に関する八幡製鉄所事件を例にとると、社会的に相当である限り株主の利益に寄与しない寄付を取締役はなしうると考える人(江頭先生)と長期的に株主の利益になる限りにおいて寄付をなしうると考える人(鈴木竹雄先生)がおられるようです。

2. 倒産状態の場合

江頭先生は「株式会社・有限会社が債務超過またはそれに近い状態である場合には、取締役がイチかバチかの投機的経営を行うことは、残余請求権者でありかつ有限責任である株主(社員)の利益を最大化する方策ではあるが、会社債権者の損害を拡大する蓋然性が高いので、取締役の任務懈怠となり第三者(会社債権者)に対する責任を生じさせる。」と明記しておられ(江頭同16頁)、注意義務の変遷を認める立場をとっておられます。この説が日本の学界でどの様な地位を占めるのか、江頭先生の本(しかも第二版)以外に基本書を持参していない私には全くわかりません。

また、江頭先生の見解にたったとしても、株主に対する注意義務を否定することは別の問題のように思います。投機的経営を行わないという行為を選択する局面では、取締役が株主の利益を最大化するために行動していないといえるのでしょうが、株主の議決権行使まで否定することはできないと思うのです。仮に注意義務の名宛人が変容するといったとしてもそれはギャンブルをするなという局面だけの話であり、株主を無視してよいとまではいえないでしょう。

債務超過に近い状態においても義務が変遷するとすればどの時点からなのか、債務超過の評価はどうするのか、著しく困難な判断が要求されることも事実であり、それがゆえに法は減資の条件として債務超過であることと、裁判所の許可があることというハードルをもうけて株主を保護しているのだと思います。

私なりの回答としては、DIP型民事再生手続きのもとでも取締役は従来通り株主に対して善管注意義務・忠実義務を負うが、投機的経営を行わないという意味においてその内容は変遷しているということにしておきたいと思います。仮に債務超過であったとしても、裁判所の許可を得て減資がなされるまでは答えは同様でしょう。

3. 取締役が解任されたら?

ヤバイゾはセイジツをスポンサーとして選定したのはセイジツが100%一括弁済という条件を提示し、コワイゾよりも弁済率・弁済時期・弁済の確実性において明らかに有利と思われたからでした。一応債務超過ではないとはいえ、ヤバイゾの株式は既に上場廃止になっており、値段がつかないことをいいことにし、コワイゾが株式を買い集めてきたときはどうすればいいでしょうか。株主に歯向かい、債権者利益を保護することが許されるのか、許されるとしてその手段はあるのかという問題です。

ギリギリまで詰めると答えはよくわかりません。例えば私的整理を要求する場合は株式を残したまま債務免除を要求したりしますが、それが取締役の義務に反するとは到底思えないのです。株主利益最大化のためにより多くの債務免除を求めることはまさに取締役の職務といえなくもないわけで、それを批判されることはないような気がします。単純にやりすぎると債権者からの賛成が得られなくなるし、監督委員からの同意がもらえないよというだけの話で、取締役の義務が変わるとまでいう必要があるのか、実はよくわかりません。

少なくとも法的整理に入った後は違う行動原理だろうといわれるとそんな気もしますが、法的整理であっても理屈のうえでは株主に対する分配も想定されていて、債権者だけを向いて行動しなさいということはいえないように思うのです。まあ、幸いというか、日本の倒産事案は弁済率が著しく低く、株主への分配なんてありえないものばかりなので、債権者のことだけ考えろという規範もそんなにおかしくはないんですが。

まあ理屈はともかく、結論からすると、一度公平な手続きで決めたスポンサーですから、それを株式の買占めという行為で結果を覆させるわけにはいかないでしょう。コワイゾからの議決権行使を制止するために理屈を捏ねまわすことはできますが、私ならDIP型で継続することに限界があるとして、管財人を選任してもらっておしまいにするでしょうね。
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# by neon98 | 2006-02-25 04:57 | Corporate Governance

乗っ取り屋と用心棒
ようやく入手して読んでみた乗っ取り屋と用心棒。厳密な意味で専門書ではないのだが、よく勉強されているなあと素直に感心した。「第6章 様々な鎧と用心棒」はどちらかというと業界内ネタを週刊誌的興味をもって読んだのだが、本来そういう本ではない。全体を通じて一つのポリシーが感じられる。

「四類型登場の背景」というコラムは裁判例動向の予測という観点からも重要だろう。なんでLBOがいけないんだろう?という疑問は、日経新聞記事で鬼頭裁判長のインタビューを読んでもなぜ駄目なのかは全く理解できなかったし、今もできないのだが、わざわざ判決文に書かれた背景なるものが若干触れられている点は参考になる。でも、これをベースに対抗策導入した企業がたくさんあるし、どうするんだろう。
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# by neon98 | 2006-02-24 15:07 | 読書・映画等

日経でもインサイダー取引ですか・・・
Nikkei Net
日本経済新聞社東京本社広告局の社員が今年2月までの数カ月間、日経新聞に掲載される上場企業の株式分割などの法定公告の掲載前後にこの会社の株式を売買、利益を得ていたことが分かった。証券取引法が禁じるインサイダー取引に当たる疑いがある。証券取引等監視委員会は任意の調査を既に始めている。
証券会社さんなどだと制度的にインサイダー疑惑に対応されており、売買取引前のクリアランスが要求されたりしていると思うんですが、日経さんではどうされていたんですかね。

事実上独占に近い業態なので、収入に著しい影響があったりはしないでしょうけど、事実だとすればあっちゃいかんことが起こってしまったようですね。銀行、証券会社、新聞社、会計事務所、法律事務所、ここらあたりはインサイダー情報の宝庫ですから、従業員がインサイダー取引に関与することを防止するシステム作りみたいなものが必要だと思います。

他方でどんな仕組みを作っても防げないときは防げないという割り切りを僕は正直に支持してしまうタイプなので、結果としてルール違反があったからシステムが機能しなかったというのは言いすぎだと思います。違反を未然に防止する仕組み以外に事後的に違反を処罰する仕組みがあればそれでいい場合もあるんじゃないかと。
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# by neon98 | 2006-02-24 02:46 | Securities

私信ーどうもお疲れさまでした
特に誰宛ということもないのですが、これ受けておられた方(そこのあなた!)、本当にお疲れさまでした。打ち上げにいって騒ぐもよし、家でゆっくりするもよし、とにかくストレスと疲れとがとれますように。
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# by neon98 | 2006-02-23 07:33 | NYBar・BarBri

今日のボヤキ
新会社法絡みの仕事があって、内容を英語で説明しなくちゃならないのだが、準備中。訳語の選択だけで異様に時間がかかる。

「公開会社」をPublic Companyとすると明らかにMisleadingだし、Openだと意味不明だし、苦し紛れに思いついたのがA Company with no share transfer restrictionなんてもの。長いけれどしょうがない。

他に「会計参与」なんて、accounting directorくらいしか訳語があてられなかった。他国にない制度だから用語はあまり悩んでもしょうがないか。それよりもどういう機関なのかを説明してあげることなのだろう(あまり使われそうにないから無視してよいとか^^)。

訳語として、元の言葉の意味をどこまで伝えるのか、制度間差異をどこまで考慮して用語を選択するのかもあるのだけれど、ある段階をすぎるとスタンダードになった訳語選択が優位性を持つのは当然。だから、法令の翻訳が進んでしまうと相当楽になるんだけどなあ。まだしばらく時間かかるだろうなあ。
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# by neon98 | 2006-02-22 07:19 | よしなしごと

Empire State Buildingに想うグレーゾーン
ちょっと真面目に書いてる暇と気力がないので、今日はヨタ話で失礼します。

世界一高いビル競争に勝利するためにNY市のお金持ち市長はEmpire State Buildingの上に長いアンテナを伸ばすことにしました(実際に台北のビルに勝つには120メートル以上必要です。)。お金持ち市長がギネスブックに世界一高いビルとして申請したところ、そんなに長いアンテナは極めて異例だから、それが建築物の一部であることに関して弁護士意見をとってこいと言われました。既に台北のビル所有者からは「世界一高いビルであるという虚偽により観光客を略奪する行為であり、訴訟も辞さない」とクレームが来ています。大得意先のお金持ち市長から意見書を依頼されました。どこまでが建物なんでしょう?と悩む弁護士の心理・・・はこんな図面で表現できますかね。
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120メートル以上も伸ばすのは気になりますが、この事案なら一番上までいっちゃいますかね、僕なら。市長は、あれはずるいよなと批判されることとは承知の上でやっているわけですし、虚偽と言われたところで見りゃわかるんだから詐欺といわれるこたあないわけですから。

グレーと言われた場合に、白に近いのか、黒に近いのかっていうとかなり実質判断なんでしょうね。実質的に誰も困らないような事案ならリスクとるべき場合もありますしね。なんでもかんでも保守的に考えていくだけなら弁護士いらないとも思うわけで、どこでお客さんと一緒に勝負できるのか、常に考えていくんでしょうけど、弁護士がリスクとれるかどうかは結構お客さんが信頼できる人なのかどうなのかによってかなり違うんですよね。情報がひとつでも隠されていたら違う判断になる場合もあるわけですし・・・。さて、仕事仕事。
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# by neon98 | 2006-02-18 02:30 | よしなしごと

TOB失敗後の市場での買い増し(追記有)
Nikkei Net
ディスカウントストア大手のドン・キホーテは15日、持ち帰り弁当チェーン、オリジン東秀の株式を46.21%まで買い増したと発表した。オリジンに対する敵対的TOB(株式公開買い付け)が失敗に終わった9日以降、市場で15%強の株式を取得した。オリジン東秀は「公開買い付け規制の趣旨に反している」と主張しており、TOBの情報開示のあり方をめぐる議論にも影響を与えそうだ。
イオンによるTOB実施、ドンキによるTOB失敗により、すっかりドンキはイオンのTOBに応じて終了するかのように考えていたのですが、そうは甘くないようですね。ドンキは市場買付で51%超まで買うと宣言しており、イオンによるTOBの成否が怪しくなってきました。9日以降の値動きからするとドンキはイオンの提示価格である3,100円をわずかながら上回る金額で購入していたのではないかと思われ、利鞘狙いでの買い増しとは考えにくいです(証取法164条の短期売買差益の問題はスキームによっては逃れられるので可能性はゼロではないのですが)。

公開買付期間中は証取法27条の5で別途買付けが原則として禁止されているのですが、終了後には規制がありませんので、この点は問題ないのですが、オリジン東秀は質問書(PDF)をドンキに対して送付し、証券取引法違反の疑いを指摘しています。オリジンが問題にしているのは、(1)市場買付と市場外買付との一連の取引により3分の1を超える取得を行う場合は現行法のもとでも公開買付規制に服するのではないか、(2)第三者が公開買付を実施している期間中にその他の者が対抗的に株券を買付ける場合には公開買付を義務付ける方向で公開買付制度WG報告がなされており、株主に対して十分な情報提供および平等な売却機会を提供していない不適切かつ不平等な行為であるという点です。

(2)に関しては「不適切」とはいえるかもしれませんが「違法」と評価することは難しいと思います。(1)に関しては、ずっと昔から34%を保有している支配株主が市場で株式を買いますことまで公開買付規制に服するとは思えない(WG報告書でも市場内取引は公開買付規制の対象外とする立場が維持されています。)ので、仮にオリジンの解釈が正しいとした場合でも今回の市場内取引と一体と主張される過去の株式取得行為がいつの時点のどのような取引だったのかを調べてみる必要がありそうです。すなわち、WG報告書は
例えば一定の期間に行われる一連の取引について取引所市場外での取引と、それと同時に又は引き続いて行われる取引所内での取引あるいは第三者割当等とを合計すると株券等所有割合が3分の1を超えるような場合に、公開買付規制の対象となることが明確なものとなるよう、所要の手当てを講じることが適当
としており、たしかに現行法のもとでも一連の取引という法律構成をとる余地を認めているのですが、何をもって「一定の期間に行われる一連の取引」とするのか不明確であるのも事実であり、事実関係によっては評価が相当困難なところだと思われます。

(追記)
辰のお年ごさんに教えていただきましたが、ドンキの法律顧問であるあさひ・狛法律事務所から本件市場買付けは違法でもなく、不適切でもないという意見が出されています(PDF)。公開買付開始前の平成18年1月13日に市場外の相対取引により株式を取得したが、この時点で公開買付を実施する意図があったのは明白であり、その当時に公開買付の失敗後の市場取引まで予想できたわけではないから、前の市場外の相対取引と今回の市場取引は一連の取引ではないという意見です。
(追記終)

また、ドンキが公開買付失敗後に
市場の混乱をさけるため、公開買付価格の引き上げや期間の延長を行いませんでした。また、今後オリジン東秀株式に対する公開買付けを再度実施することも考えておりません。
と公表している点も個人的には相当気になります。たしかに公開買付けを再度実施してはいないわけですが、これを読むとドンキは撤退したと感じるのが通常の感覚であって、市場買付けをするのであればわざわざ「やりません」なんて宣言する必要はないんじゃないでしょうか。発行者である会社以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令第6号様式の公開買付報告書の記載事項でもありませんし、公表する必要がないのに誤解を受ける表現で開示することはやはり問題(違法かどうかはともなくとして)といわざるをえないように思います。

いずれにせよ、公開買付制度の改正に影響を及ぼすことは間違いなさそうですね。
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# by neon98 | 2006-02-16 02:43 | M&A

住友信託v. UFJは請求棄却ですか・・・
読売ニュースより。
判決は、「旧UFJ側が住友信託側と誠実に交渉する義務や独占的に交渉する義務に違反した」と認定しながらも、「最終契約の成立が確実だったとは言えない」とし、統合実現で得られたはずの利益を賠償する義務はないと指摘した。
オーソドックスに考えると、最終的に経営統合が履行される約束は存在しなかったのであるから履行利益を賠償する義務はないという考えはまあ予想はできたところではありますが、信頼利益がどう主張・立証されていたのかを読んでみないとわかりませんね。さすがに請求棄却判決を受け、以前金額的に折り合わなかった和解交渉がここで決着がつくとは考えにくいので、舞台は高裁へ進むことになりそうです。

今までわりとルーズに独占交渉権設定なども行われてきたわけですが、独占交渉権を前提にデューディリジェンスや交渉の費用と手間をかけていく当事者としてはBreak UP Feeというものを本当に考えていかない状況にはあるわけで、また取締役の善管注意義務のあり方として自由な相手選択をどこまで制約することが許されるのかDeal Protectionなども日本法のもとで研究されていかないといけないのでしょう(もう、とっくに対応されている皆さんもいらっしゃるとは思いますが。)。備忘代わりに速報めいたエントリでした。
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# by neon98 | 2006-02-14 01:08 | M&A

雪だ^^
雪のない寒さは大嫌いだ。どうせだったら積もりやがれという昨日の願いが通じたのか。今日のニューヨークは大雪です。なぜか6時半に目覚め、外の雪を確認するとうれしくてそのまま散歩へ。休日は作業開始が遅いのか除雪車が始動しておらず、アパートから外への扉を開けようにも雪を押しのけないと出られません。なんとか外へ出たはいいものの吹雪の中を数分歩いて素直に退散してきました。

午後からようやく降雪もやみ、子供と外へ。中庭の新雪を踏み荒らす楽しさ。雪が降ると寒いのもいいものです。
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少し早いですが、アメリカ式のバレンタインということで、久しぶりに頑張って手料理を妻子にご馳走してみました。フールフーズで買い出してきたムール貝、モッツァレラチーズ、ワインなどで久しぶりに料理をしてみました。
・トマトとモッツァレラチーズの前菜
・トマトベースの野菜スープ
・ムール貝を玉葱・にんにく・バター・コンソメで煮たもの
・魚介ベースのスパゲティ
・ストロベリーパフェ
ある程度食材にもこだわってなお20ドル少々でこれだけ食べられるのだから、自炊も悪くないなあと思いますね。雪であまり外へ出られない日の過ごし方でした。
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# by neon98 | 2006-02-13 11:07 | 日常・海外生活

海が恋しい今日この頃
今週は久しぶりに寒いニューヨーク。今年は米国が全体的に暖冬ということで余裕をかましていたのだが、なんだか寒くなってきた。現在は氷点下1度で雪がちらついている。夜の間に降り積るだろうか。

寒いのは大嫌いだ。でも、雪は大好きだ。という複雑な私にとっては、雪さえ降ればもっともっと寒くなったってかまわない。雪合戦やら雪だるまやらスノーモービルやらで子供を連れ出すのだが、実は一番楽しんでいるのが私だったりする。このくらいの気温で積もるほど雪も降らず、風が強いというのがやるせない。

ニューヨークの微妙な寒さは大嫌いだ。風が強いから寒いんだけど、はしゃぐほど寒くないし、雪遊びもするほど積もらない。こんな天気のときは本当に海が恋しい。いいなあ、西海岸の方々・・・。ということで、とりあえずはフロリダ旅行を計画中。海、海、海、海ーーーーー。
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# by neon98 | 2006-02-12 10:45 | 日常・海外生活

証券取引法上の課徴金制度
倒産法の本は全く持参しておらず、調べようがないにも関わらず、何も考えずに出題しちゃったりしたシリーズ 日本のCorporate Governanceを考える(8)-株主中心主義と倒産状態(上)の回答らしきものは週末にゆっくり考えるとして、今日は前から気になっていた話題を。

SECがStatement of the Securities and Exchange Commission Concerning Financial Penaltiesというリリースを出して、Civil Penalty(民事制裁金)の取扱いについてSECの見解を表明しています。民事制裁金は刑事罰としての罰金(fine)とは別個のSECによる行政処分です。刑事罰となると抑制的に運用する必要があるため、それに至らない程度の違反行為であっても違反行為の程度や態様に応じてSECが利用できる手段として想定されており、基本的な性質は平成16年に証券取引法に定められた課徴金と同じです(但し、制度設計はかなり違います。詳しくは、森田章「証券取引法上の民事救済としての課徴金制度のあり方」商事法務1736号16頁などをご覧ください。)。

このリリースはSEC v. McAfee Inc.とIn the Matter of Applix, Inc.という2つの証券法違反事件について一方には民事制裁金を科し、他方には民事制裁金を科さないという取扱いをしたことについて、SECの見解を表明したものです。

SECのポジションは、証券の発行者が企業である場合に民事制裁金が科されると株主が最終的にそのコストを負担することになり、投資家の保護というSECの目的に合致しないとして、(1)株主が違反の主な被害者である場合には発行体企業のために違反行為を行った個人から民事制裁金を徴収し、(2)反対に株主が利益を享受した場合には発行体企業から民事制裁金を徴収するというものです(詳細は割愛しますが、違反抑止効果などの諸事情も考慮のうえという留保がつけられているのであくまでも原則論です。)。

これはSOX308条により、徴収された民事制裁金は国庫に帰属するのではなく、被害者救済のために利用するように変更されたことを受けてのSECの見解のようです。すなわち、株主が被害を受けた場合に発行体企業から民事制裁金を徴収し、行政コストを差し引いてまた被害者に返還していたのでは、結局資金がグルグルと回っているだけであり、行政コストをかける分だけ被害者救済を阻害するという問題があり、この問題を回避するために違反行為により生じた損害関係により判断するという立場をとったようです。

先日日本で初めて課徴金支払を勧告した事例(インサイダー取引をした従業員に対して利益吐き出しを勧告した事例ーNikkei Net)が報道されました。こういう事例の株主損害の捉え方は難しいのですが、例えば粉飾決算の有価証券届出書により株主が損害を被った場合に課徴金を科していくのか判断が難しいところだと思われます。ちなみに、条文は未確認ですが、前掲森田章によれば「企業内容開示制度に関しては有価証券届出書の不実開示のみが対象となっている」ということで、有価証券報告書は対象とならないようです。(辰のお年ごさんに改正情報教えてもらいましたので削除)

企業の違反行為により株主が被害を受けたときに、上場廃止・課徴金・法人処罰など、株主がもっとダメージを受ける行為をとるのかどうかは非常に難しい問題だと思います。証券詐欺関連の損害賠償や課徴金制度の政策論は本当に難しいのですが、ここらあたりもできれば頑張っていきたいと思います。
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# by neon98 | 2006-02-11 08:36 | Securities

シリーズ 日本のCorporate Governanceを考える(9)-株主中心主義と倒産状態(中)
以前47thさんが以下のようなコメントをくださいました。
アメリカの株主優先主義の面白いところは、ドグマではなく、効率的な経営陣規律のための一つの手段だと割り切られているところがあるため、…株主がギャンブルに走る場合には、取締役は株主よりも債権者利益を優先すべきといった考えも出てくるところですね。
書こうと思っていた話だったので、あまり立ち入ったコメント返しを避けていた部分を今日書いていきます。デラウェア州の裁判例で「株主よりも債権者利益を優先」とまでは言っていませんが、Credit Lyonnais Bank Nederland, N.V. v. Pathe Communications Corp., 1991 WL 277613 (Del. Ch. 1991)は、少なくとも会社が債務超過に近い状態(the vicinity of insolvency)にあるときは取締役会は単なる劣後者のエージェントではなく、企業(corporate enterprise)に対してその義務を負う、と判示しています。なんて偉そうに書いてますが、本エントリ中の引用は全てBainbridge, Stephen M., "Much Ado about Little? Directors' Fiduciary Duties in the Vicinity of Insolvency", Journal of Business and Technology Law, Forthcoming からの孫引きで原典にはあたってませんので、ご注意を。

債務超過の可能性がインセンティブに与える影響の結果、株主がギャンブルに走り、取締役らの行為規範がおかしくなること一例として以下のような場面が紹介されています。企業Aは唯一の資産として、企業Bに対する債権を有しており、第一審の判決の結果企業Bに対する$51Mの勝訴判決が得られました。この判決は現在控訴審に継続しており、見直しまたは覆される可能性もあります。控訴棄却(現状維持)・破棄自判(修正)・原審破棄の場合(敗訴)におけるそれぞれの確率・結果は以下のとおりです。
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この場合判決の期待値は$15.55Mであり、会社にとって期待値を上回る$17.5Mの和解提案を受けることは合理的です。ただ、仮に負債が$18M存在した場合に、取締役が株主の利益のみを考慮して行動するとしたらどうでしょう。株主としては$18M以下の和解提案を受け入れるメリットは存在せず、$51Mの価値のある控訴棄却判決を求めるという「ギャンブル」に走ることになります。通常の場面では、株主への配分は債権者に劣後しますから企業全体にとって合理的な意思決定が維持されれば債権者が害されることはありませんが、この場面では企業全体にとって合理的である意思決定が株主単体にとっては合理性を有しないというわけです。Credit Lyonnais判決は、株主が債権者の利益を犠牲にして「ギャンブル」をするインセンティブを防止するために、Fiduciary Dutiesの宛先を企業そのものに移転するという手法を採用しています。

これに対してBainbridgeは現実にはそのような懸念はほとんどない(タイトルをMuch Ado about Nothing=空騒ぎよりも正確にはMuch Ado about Littleであるとしたのも、懸念がゼロではないが無視できるという趣旨です。)と反論します。その根拠としては(1)債権者は事前に契約交渉を行うことにより、機会主義的行動を防止することができる、(2)リスクに見合った利息を要求し、望ましいポートフォリオを形成することにより、全体としては問題にならない、(3)公開企業においては所有と経営が高度に分離しており、経営陣が株主のみのメリットを重視するおそれは少ない、(4)非公開会社に対しては通常債権者の交渉力が強いから事前の契約交渉で十分保護を受けられるはずであるといったあたりです。それよりも(1)”In the vicinity of insolvency”の範囲が不明確なために法的安定性を害する、(2)企業の利益を重視というのは株主と債権者とのいずれかの利益を選択しないといけない場面においては何の行為規範性も示していないという問題を指摘し、株主中心主義が貫徹されるべきであると主張しています。

BainbridgeはCredit Lyonnais判決の考え方は必ずしも通説ではないし、デラウェア最高裁はこの問題についてまだ何の判断もしていないといいますが、Credit Lyonnais判決は否定されているわけでもありませんので、少なくとも実務的には無視しえない存在と受け止められているようです。

なお、Zipora Cohen, Directors’ Negligence Liability to Creditors: A Comparative and Critical View, 26 J. Corp. L. 351, 377-379 (2001)という文献は、会社がInsolventな場合に適用される信託財産理論と、Credit Lyonnais判決とを区別しており、前者はInsolvency状態の場合において取締役が債権者利益のみを考慮することが許されるとしているのに対して、後者は会社の利益全体を考慮すべきであるとしています。もはや株主利益を考慮すべきではないという状況が存在すること自体はたしかなところで、私的整理のケースとDIP型法的整理のケースとを区別する、あるいは債務超過である場合とそうでない場合とを区別するような考え方なのかもしれません。今日はこんなところで。
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# by neon98 | 2006-02-10 08:16 | Corporate Governance

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