日本では社外取締役の数が絶対的に少なく、アメリカにおける独立取締役ほどの独立性を有していないという説明をよく聞きます。でもそれだけの説明だと…So What?という世界ですので、取締役会の構成について少し考えてみましょう。
取締役は、監査役や会計監査人と求められる役割が異なるわけですから、独立性とは別個に経営者的能力というものも求められる世界です。会計監査人が社内の人間という制度設計はナンセンスですが、取締役については社内の人間の方が優れている面も多いように思います。社外取締役を採用、あるいは社外取締役が過半数を占めている企業のパフォーマンスが優れているとの実証研究はないともよく聞きます。たぶんそうなんでしょうし、仮に統計数値をとって有意の差があったとしてもモデル論というものがないと因果関係というものをうまく説明できません。
ただ、これらの議論は社外取締役が制度として優れているという証拠がないというだけのことであって、例えば経営陣との利益相反がある場合に外部の人間がふさわしいということまではいえると思います。取締役会の構成においてどの程度外部の人間が必要かという議論は、取締役として求められている役割(アドバイザーなのか、監視役なのか)、判断を求められる局面(投資判断なのか、敵対的買収防衛の判断なのか)により相当変わるだろうと思います。社外取締役と内部取締役とのいずれがふさわしいとは一概にいえないという命題を基本にすえて考えていきたいと思います。
ちなみに私は社外取締役だから会社と利害関係がないとか、保身に走らないという主張は理解できません。社外取締役とはいえ、会社から報酬をもらっているわけですし、普通経営陣と何かの縁があって採用されているわけですし、敵対的買収者がきて首をすげかえられるとすれば保身を考えても不思議ではないと思います。30年継続して勤務してきた会社に取締役として入る場合との差異は、思い入れの違い、転職の容易さの違いという相対的なものにすぎないでしょう(転職の容易さというのはかなり重要な要素ではありますが。)。アメリカの独立取締役が買収防衛の時点でうまく機能しているとすれば、その理由は取締役が独立しているからというよりもむしろ株式報酬により良い買収条件を引き出すとフロリダに素晴らしい別荘が買えるからであり、社外取締役となっている階層にとって転職活動はさほど困らないからではないかという気もします。既に10億円持っている人が株式を高く売却するインセンティブを持ちながら奥様とヨットと別荘を買う相談をしている状況と、自宅にいると奥さんに邪魔者扱いされ、子供がロースクールに行きたいなどと言い出してまだまだ会社に勤務しつづけなければならない状況とでは、判断が当然変わるんでしょうね。
単なる駆け出しの一弁護士が私見を述べてみてもしょうがないので、次回以降は、題材を三輪・神田・柳川『会社法の経済学』(東京大学出版会)と小佐野広『コーポレートガバナンスと人的資本』に求めて考えていくことにします。
このシリーズ、他の話題を交えながらダラダラいきますので、ごゆっくりお待ちください。