今日の気分はやや文学的だ。Marvin GayeのWhat's going on?のバックに流れるセクシーな吐息のせいか、地下鉄の駅にある洒落た広告をみて久しぶりに口にしたジョニ黒のせいかはわからないが、とにかく何かが無性に書きたくなった。夜一人の空間で、意味がわからないが耳に心地のいい音楽と、ウイスキーグラスに注がれたScotchと氷の奏でるハーモニーを聞いていると、自分に陶酔した文章を書いてしまうのも致し方のないことだ。
2004年8月のある日、Las Vegasの空港に降り立つところから僕の記憶ははじまる。砂漠の中のオアシスに欲望とエンターテインメントの街が突然あらわれる。空港の中からいきなりスロットマシーンが並ぶ。子供を抱いてスロットマシーンを眺めていると警備員が飛んできて、未成年者禁止ゾーンだから子供をつれて入るなという。通路のど真ん中にカジノを設置しておいて近寄るなもないだろうとぶつぶつと日本語で文句を言いながらスロットマシーンから離れる。近寄ったからといって、2歳にもならないわが子に何ができるというのだ。ヨダレだらだら攻撃をスロットマシーンに仕掛け、税収のもととなる機械を破壊することをたくらんでいるとでも思うのだろうか。おっと、自己陶酔の気分がヨダレだらだら攻撃を想像することによって失われてきた。元に戻そう。
Las Vegasはスペイン語で「草原」を意味するらしい。砂漠の中でのオアシスとしてLAまでの中継点として発展してきたLas Vegasらしいネーミングだ。ギャンブルが一時禁止された時代でも地下賭博が盛んだったらしいこの街はギャンブルの合法化によって経済を成立させ、NJのアトランティックシティというライバルが登場した後はエンターテインメントにも力を入れている。ネバダ州の税収の43%がギャンブル税により稼ぎ出されているという。シカゴマフィアとの関係なんかも興味深い。
空港でレンタカーを借り、西海岸的Free Wayでの暴走車両の間を抜け、Vegasの中心街に繰り出す。街中に巨大なスフィンクスやらピエロやら城やら林立するのはこの街くらいだ。派手さに定評のある日本のラブホテルが勝負を挑んでも到底かなうまい。ホテルでは儲からなくてもいいからホテルが安いと言われるLas Vegasは携帯電話の販売と通話料金みたいな経営形態になるのだろうか。ギャンブルやエンターテインメントとの抱き合わせにできる保証などどこにもないだろうに。
超ラブホテル的喧騒のVegas中心部を脱出し、少し離れた箇所にあるRitz Carltonへ。Casinoの中をぶらぶらしてから、ホテルの敷地内を散歩し、子供とアイスクリームを食べる。噴水の側でジャズの生演奏がはじまった。夕暮れにそまりつつある空を眺め、演奏を聴きながら、Samuel Adamsを飲む。ビールはいつでもどこでも店にある限りSamuel Adamsだ。やがて食事が運ばれてくる。西海岸が近いと空の色が違うような気がする。Vegasでの一日が過ぎていく。
That's it? Nothing else?と聞く人にYes, that' itと笑顔で答える。サーカスなんかのエンターテインメントは見なかった。結局カジノもしなかった。何しにVegasまで?という人も多いけど、単に興味がないのだ。僕には日本では全くエンターテインメントに興味のなかった人がニューヨークに来て脅迫観念にとりつかれたようにミュージカルに通う姿の方が不思議だ。せっかいの機会だから新たに体験してみるのもいいだろう。僕もミュージカルくらいそのうち一度はいくだろう。でも、家族でVegasの不思議なホテルの大群をみてひととおりはしゃいで、食事と音楽を楽しんで快適なホテルで綺麗な星空をみてくつろいだらそれ以上何が必要なんだろう。
僕の中にある「自分の殻」。意外と固く、狭い「自分の殻」。村上龍が友人だったら、「ヨーロッパ社会におけるギャンブルは貴族と金持ちのみに許された高貴な遊びだ。持たざるものはひがんで見ていればいい。俺は金と酒とギャンブルと女が似合うから君とは違うけどね。」と言うに違いない。でも、僕は本当にひがんでいない。USOPENとか存在も知らなかったし、大リーグも面倒でチケットとらずにいたらシーズンが終わってしまったし、NBA、アイスホッケー、コンサート、オペラ、ミュージカルいずれも誘われたらいくけど別にいいやという感じで今のところどこにも行っていない。まあ嫌っているわけじゃないから中には行くものもあるだろうけどすごく興味があるわけではない。
僕の中にある「自分の殻」。そんなに自分を定義づけなくてもいいのに存在する「自分の殻」。旅行の予定を埋めていく作業が嫌いな「自分の殻」。団体ツアーには参加できない「自分の殻」。単にギャンブルしなかっただけで自己の心理分析をしてしまう「自分の殻」。時々破るけど基本は守る「自分の殻」・・・
Drink responsibly. Keep Walking. Johnnie Walker
(怒涛のGrand Canyon編へ続く)